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2006年1月29日 (日)

4冊目 『藤山一郎とその時代』

小学生の頃だったと記憶しています。昭和歌謡を振り返る番組で、藤山一郎さんの「青い山脈」を聴いたとき、なんとも言えない清廉さと哀愁を感じ、また、現代J-POPを盛り上げる歌い手とはまったく違う、その独特の歌い方にも強い関心が芽生えました。

私は現在二十代半ばの、藤山さんが活躍した時代が疾うに過ぎ去った後に生まれた世代に当たりますが、そんな私にとって「青い山脈」が思い出の曲となっているというのは不思議なものだと自分でも思います。今日紹介するのは、藤山一郎さんの生涯を辿ったこの本、

『藤山一郎とその時代』 池井優 1997.5 新潮社

藤山一郎とその時代』 池井優 1997.5 新潮社

です。目次を眺めると、

プロローグ 急逝

1 第一の母校・慶応

2 音楽学校の青春

3 歌手「藤山一郎」の誕生―「酒は涙か溜息か」

4 テイチク時代―「東京ラプソディー」

5 戦争そして軍歌

6 南方へ

7 収容所のアコーディオン

8 荒野にひびけ―「長崎の鐘」

9 若く明るい歌声に―「青い山脈」

10 四三回の紅白

11 流行歌への疑問

12 奉仕の精神をいかす

13 日本の自動車史を生きる

14 最後の作曲

エピローグ 冨士霊園

という構成になっています。

著者ははじめに、このように記しています。

藤山一郎は明治という時代も残りあと一年という明治四四年(一九一一年)に生を受け、満州事変の始まった昭和六年(一九三一年)に「キャンプ小唄」「酒は涙か溜息か」でデビュー。戦時中は、戦時歌謡を歌い、軍のために南方の島々を慰問。終戦後、その南方の島で収容所生活をおくり、帰国して「青い山脈」「長崎の鐘」などの大ヒット曲をとばす。しかし、歌謡曲の堕落に疑問を感じ、NHK専属となって、ホームソングをはじめ、正しい歌、皆で歌える歌の普及に努めた。さらに、ロータリークラブやボーイスカウト活動など、昭和三〇年以降に活発となる社会奉仕は晩年まで続けられた。

「楷書の歌声」「楷書の人生」を貫いたこの藤山一郎の生涯を追うことは、大正・昭和、さらに平成と日本の歩みを追うことでもある。(P9 プロローグより)

私は大学進学に向けて勉学に励んでいたとき、机の目の前に、あるメモを貼っていました。それは、「青い山脈」の歌詞に、山脈のイラストを添えた手書きの自作メモでした。

『若く明るい 歌声に

雪崩は消える 花も咲く

青い山脈 雪割桜

空のはて

今日もわれらの 夢を呼ぶ』

この歌詞を眺めていると、希望を歌う声が聴こえてくるようで、いつでも目に入る机の前の壁に貼っていたのでした。

2005年末に行われた、第56回 NHK紅白歌合戦では、「スキウタ」アンケートが実施され、その1位にはSMAPの「世界に一つだけの花」が選ばれました。そのことに関連した話になりますが、この本では、「青い山脈」が日本人の最も好む歌のベストワンであるという、二つの調査の結果を紹介しています。

一つは、1980年、TBSによる『日本人の好む歌ベスト一〇〇〇』、そしてもう一つが、1989年、NHKによる「昭和の歌・心に残る二〇〇」。いずれも1位は「青い山脈」となっており、「青」という色の持つ「標準的・清潔志向」、「山脈」の持つ「故郷志向」が作用しているとの指摘や、日本人の持つ適当な保守性・潔癖性・進歩性・曖昧性を要因とする分析などが紹介されています。

私が面白いと思ったのは、慶応普通部で同級生だった岡本太郎さんとのエピソードで、2人の卒業時、成績は藤山さんが52人中51番で、岡本さんが52番だったそうです。国民栄誉賞受賞歌手と日本を代表する芸術家がここに並んでいたことは、なんとも意外かつ、だからこそ人生は面白いと感じさせてくれました。

大学入学直後に、同回生の前で歌を歌わねばならなくなり、とっさに歌ったのが「青い山脈」で、その後、同回生の間では、私と言えば「青い山脈」だという学生生活を送ることになりました。

そんな思い出のつまった「青い山脈」ですが、これを機会に、まだ藤山一郎さん本人の歌声を聴いたことのない方には、ぜひ一度、清々しく澄んで特徴のある、あの歌声を聴いてほしいなぁと思います。

◎関連リンク◎

藤山一郎(Wikipedia)

青い山脈(山の愛唱歌集)

・『藤山一郎自伝 歌声よひびけ南の空に』 藤山一郎 1993.10 光人社(光人社NF文庫)

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