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2006年3月 6日 (月)

6冊目 『全国アホ・バカ分布考』

「この世のあらゆる謎や疑問を徹底的に究明する」ことをモットーとし、この3月で放送19年目に突入した関西が誇る名物番組。あまりにもアホらしい依頼から、作り物のドラマ顔負けの、気づけば心の琴線に触れまくりの感動巨編まで、「喜怒哀楽=生きること」を丸ごと包み込んだ、視聴者参加型の娯楽番組、それが「探偵!ナイトスクープ」ではないかと私は思っています。

その「探偵!ナイトスクープ」が「全国アホ・バカ分布図の完成」編を放送したのは1991年5月のことでした。当時私は小学生で、不覚にも「ナイトスクープ」の存在を知りませんでした。(たぶん放送時間には寝てましたね…。)ただ、「アホ・バカ分布図」というキーワードをどこかで得て、これまでずっと気にはなっていたのですが、実際どんな内容だったのかを知るまでには至りませんでした。そんな私が手に取った本、それが今回紹介する、

『全国アホ・バカ分布考』 松本修 1996.12 新潮社(新潮文庫)

全国アホ・バカ分布考』 松本修 1996.12 新潮社(新潮文庫)

です。内容はというと、まさに「全国アホ・バカ分布図の完成」編の放送に至るまで、番組制作の中心人物であった著者が、その発端から経過、さらに放送後の驚くべき展開、そしてついに辿り着いた『アホ・バカとは何か』の結論まで、当時の現場の熱気や息遣いをリアルに感じさせる見事な筆致を持って、鮮やかに書き出したものとなっています。

新婚サラリーマンからの依頼の葉書が、前代未聞の調査の発端でした。

「私は大阪生まれ、妻は東京出身です。二人で言い争うとき、私は『アホ』といい、妻は『バカ』と言います。耳慣れない言葉で、お互い大変に傷つきます。ふと東京と大阪の間に、『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか?と気づきました。地味な調査で申しわけありませんが、東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか、調べてください」

この依頼を受けて調査は始まります。しかし、そこには思わぬ事実が待ち受けていました。東京から大阪に向けて出発した『アホ・バカ』調査の旅で、突然、名古屋の『タワケ』が現れたのです。それは、なんとなく「東は『バカ』、西は『アホ』」だと考えていた概念を打ち砕く、衝撃の事実でした。さらに九州出身の岡部秘書が、「九州ではどう言うんですか?」との問いに、「『バカ』、って言う気がしますね」との、またしても衝撃的な発言。それは、近畿の『アホ』が、東西の『バカ』にはさまれているという、驚くべき事実が顔を出した瞬間でした。投稿者の何気ない依頼を発端として、このような衝撃的な経過を辿りながら、この『アホ・バカ』調査は、以後すさまじい展開をみせることになります。

当初、『アホ』と『バカ』の境界線を見つけるはずだったこの調査は、放送をきっかけに全国各地に息づいていた、それぞれの『アホ』や『バカ』を発掘する結果になりました。

『タワケ』『ゴジャ』『デレ』『ダラ』『ホウケ』『タクラダ』『ホンジナシ』『ハンカクサイ』…。全国各地には、その土地以外の人は聞いたことがなかった、これらの言葉が生きていたのです。では、それらの言葉は一体何なのか。その新たな謎に、著者と番組スタッフは向きあうことになります。

読んでみると分かりますが、著者は読み手が唸るほど、すさまじい量の資料に目を通し、そしてそれらの謎を一つひとつ読み解いていきます。そしてもはや娯楽番組の一企画という殻を破り、まさに知で知を磨く積み重ねの中から、これまでこれほど身近でありながら、誰もちゃんと研究してこなかった『アホ・バカ』というものの姿を、初めて浮かび上がらせていくのです。それはいつしか「言語地理学」における、立派な研究となっていきました。

著者は、最後に『アホ』と『バカ』はそもそも何だったのかについて、自らの説を打ち立てます。それは『アホ・バカ』調査のクライマックスであり、かつ核心となるものでしたが、私はこのクライマックスにかけての文章を追いながら、あまりの衝撃感動で、ほんまに胸が震えてきました。どこまでも真実に迫ろうとする人間の情熱と真剣さが、怖くなるくらいの発想と想像力をもって、その結論を導き出したのでした。著者は最後にその結論を、調査仲間に発表するのですが、その時の仲間とのやりとりは正直、鬼!です。私の表現力を持ってしては、「鬼」としか表現できません。その含意は、知を知で磨く調査の中心にいたのは、紛れもなく確かな実力と発想を持った、人間味溢れる猛者たちで、一体どこまで高みに行ってしまうんやという、読み手が恐ろしさを覚えるほどの爽快な見晴らしを見せてくれたというところでしょうか。

個人的に最も印象に残っているのは、沖縄で使われている『フリムン』の解読に際しての場面で、琉球の人々が先祖から受け継いできた大切な言葉であることをどこまでも信じたからこそ、その真実に迫ることが出来た、著者の熱意と魂に、自然と涙が出てきました。

みなさん、まだお読みになっていなければ、是非この『アホ・バカ』を辿る、どこまでもあほらしくて、どこまでも真剣な知の旅に出かけられることをお勧めします。

そうそう、肝心の『アホ・バカ』についてですが、一つだけ。実は『バカ』よりも『アホ』の方が、新しい言葉だったのです。そして『アホ』の本拠地、近畿も昔は『バカ』の本拠地だった!?現在、近畿の『アホ』が東西の『バカ』にはさまれているという事実は、「方言周圏論」に照らしてみれば…。おっと、あとは読んでからのお楽しみです。

ここに本当の「学び」の豊かさと楽しさを見つけることが出来ました。どこまでも恐ろしい奇跡の調査、その軌跡が詰まった本書は、文句なしに一読以上の価値ありです。

追記1:2006年3月22日(水)

先日、「さんまのスーパーからくりTV」の生徒だけの学級会という人気コーナーをたまたま見ていたところ、ある先生が「たわけ」という言葉を使われました。もしかしてと思って注意してみていると、やはり岐阜県高山市の高校の先生でした。ここはまさに「たわけ文化圏」なんですね。

個人的には「たわけ」と聞くと、NHK大河ドラマ「葵 徳川三代」で徳川家康を演じた、津川雅彦さんの顔が浮かんできます。江戸幕府をひらいた徳川家康は三河の出身。当然家臣も三河から江戸へと行ったわけで、そのために「たわけ」は江戸の武士の言葉として広がり、そのことから今も時代劇などで「たわけ」が使われているようです。

もう一つ、九州でも「バカ」が使われているということに関連して、WBC(ワールドベースボールクラシック)で世界一になった王JAPANの一員で、九州のイチローと呼ばれているという川崎宗則選手のご両親が、決勝戦をテレビ観戦されている場面が先日放送されていました。

川崎選手は鹿児島県出身で、ご両親もおそらく九州の方だと思うのですが、お父さんが観戦中に思わず熱が入り、「バカ」と言っていました。あぁやっぱり「バカ」を使ってるんやと頷きながら、標準語とは少し違う、なまりの入った「バカ」からは何とも言えない温かみが感じられました。そういえば、博多出身の武田鉄也さんも「ばかちん」って言ってましたね。やはり九州では「バカ」が勢力を広げているようですね。

◎関連リンク◎

全国アホ・バカ分布考(新潮社)

探偵!ナイトスクープ(朝日放送)

探偵!ナイトスクープ 情報放送局

馬鹿(Wikipedia)

全国方言談話データベース「日本のふるさとことば集成」(国立国語研究所)

全国方言WEB ほべりぐ

『全国アホバカ分布考』松本修(松岡正剛の千夜千冊)

登録番号61 アホ(asahi.com 勝手に関西世界遺産)

・『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』 松本修 2005.4 ポプラ社

・『日本の方言地図』 徳川宗賢 1979.1 中央公論新社(中公新書)

はっちの太鼓本 乱打太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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