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2006年3月15日 (水)

7冊目 『歴史人口学で見た日本』

あの時代、日本列島にはどれくらいの数の人々が生活していたんだろうか。学校で歴史を学びながら、ふとそんなことを考えたことがありました。天下統一を目指した織田信長が生きたあの時代、どれくらいの人が彼と時代を共にしたんだろうか、日本が近代へと歩みを進めた明治維新の頃、どれくらいの人が時代の転換期を生きたのだろうかと。そんな私の疑問に一筋の光を射し込んでくれた本。それが今回紹介する、

『歴史人口学で見た日本』 速水融 2001.10 文藝春秋(文春新書)

歴史人口学で見た日本』 速水融 2001.10 文藝春秋(文春新書)

です。歴史人口学という学問について、この本と出会うまでは名前すら聞いたこともなく、何も知らない状態でしたが、一読してみて、非常に興味深く、また面白い学問であるという印象を持ちました。

歴史人口学の歴史はおよそ半世紀と、学問としてはまだ新しく、フランスのルイ・アンリによって確立された学問だということでした。歴史人口学は、その名の通り過去の人口について明らかにすることが目的で、近代国勢調査以前の不完全なデータを基礎として、人口学の手法を用いてそれらを分析する学問です。日本では1920年に初の国勢調査が実施されているので、歴史人口学が光を当てるのはそれ以前ということになります。

さて、それでは近代国勢調査以前の不完全なデータとは一体どんなものなのか。それが各国によって大きく違っているのです。歴史人口学発祥の国フランスでは、「教区簿冊」の分析が行われました。「教区簿冊」とは教会に備え付けられている記録簿で、そこには洗礼を受けたとき、結婚したとき、墓地に埋葬されたときの3つが個人ごとに記録されています。ルイ・アンリは、「教区簿冊」を用いて、個々人が生まれてから死ぬまでをずっと追いかけていくことを基本として、それを何十、何百、何千と集めていきました。すると、当時の人々が平均いくつで結婚し、何人子どもを生み、どれくらい生きたかということが浮かび上がってきたわけです。このような方法で当時の人口に関する指標が得られるようになったことが、歴史人口学が学問として歩みだしたその始まりでした。

では日本はというと、「宗門改帳」が注目されました。「宗門改帳」は江戸時代の初期に記録され始め、それは一神教であるキリスト教が広まるのを良しとしなかった幕府が、一人ひとりについて、キリスト教徒ではなく仏教徒であることを寺に証明させ、判をついて提出させたものでした。日本における歴史人口学の先駆者となった著者は、この「宗門改帳」に注目し、その研究・分析を行なってきました。著者は、その研究・分析によって、江戸時代初期の人口は1200万人程度で、その後17世紀中に人口爆発が起こり、享保期(1716~1736)には3000万人程度であったとしています。

私ははじめ、歴史人口学というものに対して、その時代にどれくらいの人がいたかが分かる程度ではないかという先入観を、その冠した名前から勝手に持ってしまっていましたが、この本を読み進めていくうちに、実際にはそれだけではなく、歴史の中に埋もれてしまっていた固有名を持つ人々の生涯を追っていくことで、ミクロな視点による歴史、すなわち、その時代を生きた一人ひとりの実像を浮かび上がらせ、その一人ひとりの生涯が何十人、何百人、何千人と重なっていくことで、トップダウンの歴史とは違った、ボトムアップの歴史が見えてくる、すごい可能性を秘めた面白い学問であるという認識に至りました。

江戸時代に起こった世帯規模縮小の理由とは、そして日本人の代名詞とも言える「勤勉」の源流?「勤勉革命」が起こった当時の社会背景とは。これまでの歴史観に、こうした歴史人口学の視点を持ち合わせることで、より多角的な深みを増した歴史に出会えると思います。

ところで話は少しそれますが、「過去」はその字が示すように、すでに過ぎ去ってしまったものごとのことですよね。しかしその、確かにあった「過去」は時間とともに人々の記憶から失われ、その存在を証明しうる物証もやがて失われていきます。そして「現在」。失われてしまった「過去」は、人々にとって好奇心をそそられるロマンの宝庫となっています。人類の進歩、また技術革新によって「新」発見されるのは「過去」。それも「最古の○○」と言われれば不思議と人々の関心は高まります。

「未来」に、今はまだ顔を見せていない「過去」が新発見されるというのは、なんとも面白いことだなと思います。

◎関連リンク◎

歴史人口学で見た日本(文藝春秋)

歴史人口学(Wikipedia)

ユーラシア人口・家族史プロジェクト

歴史人口学を学ぶ

人口問題(新書マップ)

速水融『歴史人口学で見た日本』(井出草平の研究ノート)

・『大正デモグラフィ 歴史人口学でみた狭間の時代』 速水融 小嶋美代子 2004.1 文藝春秋(文春新書)

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コメント

お久しぶりです。更新してるね~。
はっちみたく、いろんな本を冒険してみたいなぁ…。
ここは、世界が広がるブログで、いいですなぁ…。
何よりも、はっちの、あの、深~い、
目の奥で何かを探るような、それでいて、
喉の奥で何かがうなるような、
そんな光景が目に浮かびます(笑)

↑↑(エ!? 訳分からんてか…そら、すんまへんなぁ)

投稿: おうじ | 2006年3月22日 (水) 21:22

んん~ん、今日もよう喉の奥がうなるわ~(笑)

なんちゅうか、全く関係のない本を読んでて、
あっ、またこの人が出てきたとか、
関連したことを見つけるとなんか嬉しくなる。

この歴史人口学の本を読みながら、
江戸時代にも「アホ・バカ」がどこかで使われ、
伝播してたんかなぁとか、
雨や風に名前を与えてたんかなぁとか想像しては、
それだけで一人ウキウキしてました。

あぁもっといろんな本が読みたいけど、
結構続けるのって力がいるね、うぅ。

ゲド戦記、読了したみたいですな☆ミ
おいらも読みたいなぁ~

投稿: はっち | 2006年3月22日 (水) 23:56

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