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2006年6月11日 (日)

13冊目 『陰日向に咲く』

最近なんだか心が乾いているように、自分自身感じていました。そういえば読む本も、実用書かノンフィクションのものばかりだし。そうだ、久しぶりに小説を読もう、いや、読みたい!と思いました。そして手に取ったのが、今回紹介する、

『陰日向に咲く』 劇団ひとり 2006.1 幻冬舎

陰日向に咲く』 劇団ひとり 2006.1 幻冬舎

です。今年の1月に出版されて以来、すごく評判がいいようで、ずっと気になっていたのですが、心が乾いてしまった自分にとっては今がベストかなと思い手に取りました。

『陰日向に咲く』は五つの作品からなる連作小説で、それぞれ、

「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Over run」「鳴き砂を歩く犬」

とタイトルがつけられています。それぞれの作品には主人公がいて、その主人公が自分の生きる世界を語ることで、物語は進行していきます。どの作品にも何ともいえない切なさが散りばめられていて、その切なさに何度も胸がグッとなりました。

作品にテーマが設定されているわけではないのかもしれませんが、登場人物たちの生き様を通して、「自由」「愛」「夢」「幸せ」「本当の自分」という、生きていくうえでのテーマ的なコトバが浮かび上がってきました。以前紹介した、12冊目の『イトイ式コトバ論序説』を読んで以来、ある二人が同時に「悲しい」と同じ言葉を言ったとしても、それぞれの感じている悲しさは全く違うものだ、ということを再認識し続けている私にとって、これら「自由」や「愛」というコトバはあまりにも大きすぎて、簡単に使ったり、口に出したりすると安っぽくなってしまうような気がしていたのですが、本書は違いました。登場人物が驚くほど太くて触感があるために、たとえ文中にはなくても、その人物がどんな感じ方をして、どんな行動をとって、どんな言い方をするのかということが、自然と頭に浮かんでくるのです。そして「自由」や「愛」は、登場人物の口からだけでなく、その生き様から雄弁に語られているのです。ここまで生きている人間を描き出せている筆者には、ただただ脱帽するばかりです。

「自由が欲しい」

そういった類の、誰かが言ってそうな高尚な不満を借りて、仕事から逃げる理由を自分の中で作り出していたのだと思う。自由に憧れていたのではなく、自由に憧れる人に憧れていたんだ。(P12-13「道草」)

「拝啓、僕のアイドル様」の主人公の、キャラクターの濃さとその純真さには本当に参りました。これだけ人間味があって、憎めない主人公は、劇団ひとりさんだからこそ描けたと思います。私は「ピンボケな私」が一番ウルッときました。

話を読み進めながら、突然その一文はやってきます。どの話も、その一文がやってきて『あぁそうだったのか』と世界の視界が広がった感覚になりました。そしてそれぞれの作品はどこかでつながりあっていて、主人公たちが生きる世界へぐいぐいと読み手を引き込んでいきます。あまり小説を読まない自分にとって、この作品は、劇団ひとり節で書かれた、独特の言い回しと世界観が見事にマッチした、切なさを抱きしめたくなる、そんな作品でした。

一度読み終わって、翌日もう一度読み直しました。きっとまた何度でも読み返したくなる本だと思います。

追記1:2006年6月13日(火)

映画化の期待高まる『陰日向に咲く』ですが、『ダ・ヴィンチ』の2006年6月号において、『陰日向に咲く』の特集記事が組まれています。(P34-37)

「『陰日向に咲く』(劇団ひとり)映画版はこのキャスティングで観てみたい!」と題した特集に、劇団ひとりさんが考えたキャスティング案が載っていました。

「道草」

・サラリーマン…ノッチ(デンジャラス)

・モーゼ…大地康夫

「拝啓、僕のアイドル様」

・アイドルおたく…クリスピン・グローヴァー(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の父親役)

・ミャーコ…デビュー当時の佐野量子

「ピンボケな私」

・カメラマンの卵…ちょっと前の伊藤歩

「Over run」

・小心なギャンブラー…若い頃のブルース・ウィリス

・婆さん…京唄子

「鳴き砂を歩く犬」

・鳴子…若い頃の深津絵里

・プードル雷太…ノッチ(デンジャラス)

・ジュピター小鳥…『男はつらいよ』のリリー役 浅丘ルリ子

監督…『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン

分かるような分からないような、そんな気持ちですが、原作者が考えたキャスティングというのは、たとえ実際のキャスティングでは違ったとしても、興味深いものに変わりはないと思います。他にもいくつかのキャスティング案(『陰日向に咲く』編集者、『ダ・ヴィンチ』編集長、読者アンケート)が載っています。この記事はなかなか面白かったです。

◎関連リンク◎

陰日向に咲く(幻冬舎)

Yahoo!ブックス インタビュー 劇団ひとり

劇団ひとり(太田プロダクション)

劇団ひとり.com

WEBダ・ヴィンチ

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