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2006年6月21日 (水)

15冊目 『動物の「食」に学ぶ』

人間が生活していく上で、その基本とされている「衣食住」。人間の三大欲求である、「食欲・性欲・睡眠欲」。「食べる」ことは、私たち人間にとって、決して切り離すことの出来ない、まさに生きることと直結している行為であるといえます。現代の日本社会を見てみると、飽食の時代とも言われるように、一見豊かな食生活が私たちの目の前に存在しているようでありながら、その一方で、「過食・拒食」「孤食」「奇食」「偏食」といった、食に関わる人々の課題や苦悩も同時に浮かび上がってきているのではないでしょうか。食育の推進など、「食」という行為そのものに社会的な関心が高まってきているように感じる中で、私が今回手にしたのは、

『動物の「食」に学ぶ』 西田利貞 2001.8 女子栄養大学出版部

動物の「食」に学ぶ』 西田利貞 2001.8 女子栄養大学出版部

という本です。まず目次を見てみると、

第一章 食を決めるもの―食物ニッチ

第二章 遺伝子の散布―食べられることは増えること

第三章 味覚の不思議―なぜ甘いものに惹かれるか

第四章 薬の起源―生物間の競争が薬を生む

第五章 肉の獲得と分配―ごちそうを賢く手に入れる

第六章 変わった食べ物いろいろ

第七章 食の現在―ヒトの〝食べる〟を考えよう

となっています。著者である西田さんは、チンパンジー研究の第一人者として知られていて、『動物の「食」に学ぶ』の動物は、西田さんが長年研究されてきた、チンパンジーやゴリラなどの霊長類を主役として、紹介または解説されています。

著者は「はじめに」で、なぜ水の音は快く聞こえるのか、ということを取り上げて、水の音を快く聞こえる個体の方が、生きのびて子孫を残すことが出来たという、そのような個体が自然に選択されてきた、自然淘汰されてきた結果であるということを述べています。

本書では、ヒトを含む動物と植物の間の関係について述べられていて、その記述には多くの驚きが詰まっていました。動物が子孫を残すために厳しい生存競争にさらされているのと同じく、植物もまた子孫を増やすために様々な工夫と進化を繰り返してきました。植物の中には、生長の源となる光合成を行なう葉を、動物に食べられるのを防ぐために、毒物を生産しているものもあります。一方で、より広い範囲に種が広がっていくためには、動物や昆虫に運んでもらう必要があり、食べられては困る植物が、唯一食べてもらうために、種子に果肉をまとわせた果実を作ってきたということも述べられています。果肉だけ食べられて、種子をその場で吐き捨てられては何のための努力か分からなくなってしまうので、種子をそのまま呑み込んでもらえるように、果肉と種子は分かれにくくなっているとのことでした。最近では人間がより食べやすいように「種なし」の果実も品種改良によって生み出されていますが、植物からすれば、種がないなんて本末転倒じゃないかと、抗議されそうですね。

よくテレビ番組などの罰ゲームで、サソリや蜂、いも虫など、昆虫を食べさせられる光景を見かけますが、本書をきっかけに、昆虫を食べるということについて考えさせられました。著者によれば、6000万年前の霊長類の先祖は食虫目であり、昆虫はわれわれの主食だったというのです。昆虫食は野蛮なものだというのは欧米人の偏見からもたらされていて、日本でも蜂やイナゴなど、昆虫は昔から立派な食材であったと著者は述べています。人口爆発の宇宙船地球号がこれから乗組員全員の生存を図っていくためには、昆虫という食材を決して“無視”できないとも聞きます。(虫だけに…)

さて、私が一番面白いなと思ったのは、「カニはなぜうまいのか」について記述された箇所でした。マツバガニやタラバガニ、伊勢エビなど、人間との付き合いがそれほど古くないと思える、カニやエビをあんなに美味しく感じるのはなぜなのか。なぜなんでしょうか。著者はまず、「キュート・レスポンス」というものについて説明します。

「キュート・レスポンス」というのがある。「かわい子ちゃん反応」とでも訳せばよいだろうか。子供の姿を描くとき、極端に頭部や目を大きくし、胴体や腕脚を短くすると、たいへんかわいい感じになる。現実に存在しないプロポーションのほうが、実物より魅力的になるのだ。(P193)

その上で、著者が、カニやエビを非常に美味しく感じる理由として持ち出したのが、「超正常刺激」なるものでした。「超正常刺激」とは、自然界にある正常の刺激より強い刺激のことです。人間はカニやエビに含まれているアミノ酸を美味しいと感じていて、その美味しさを感じる度合いの最低ラインは引かれていても、上限はなかったのではないかというのです。そもそもその食材にもともと決まった味があるわけではなく、人間が「甘味」や「苦味」などを感じるのは、脳によってなのです。タラバガニや伊勢エビはあまりにも脳が美味しく感じすぎて、一昔前の流行語でいえば、「想定の範囲外」の美味しさを感じてしまう食材なのではないかということでした。

この本を読んで、人間が何かを快く感じることは、私たちが生きのびて子孫に命を繋いでいくことと密接に関わっているんだなということを強く意識させられました。

◎関連リンク◎

財団法人日本モンキーセンター 所長室

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コメント

こんちゃーす、HPは見てたけどブログの存在に今頃気づきました。
最近仕事の暇な時間を見つけては本読んでるので、キムさんの紹介してる本も読んでみようかな。色々オモシロそうな本あるね。

最近は糸井サンとか浅田次郎とか読んでます(-_-)/
ではでは~

投稿: kyu(くけ) | 2006年6月28日 (水) 23:17

kyuさん、コメントおおきにありがと~
このブログを始めたおかげで、本を読む楽しみが増えたよ
ただHPの方は更新が止まっちゃったけどね

ほんまはもっと本が読みたいけど、
月末はどうしても残業続きになって、ムズカシイっす

読む本はちょっと偏ってるけど、
面白いと思った本をぼちぼち紹介していくんで、
また来てくだされ~(^o^)/

投稿: はっち | 2006年7月 1日 (土) 12:20

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