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2006年7月 1日 (土)

16冊目 『都道府県別気持ちが伝わる名方言141』

図書館へ行くと、ぐるぐると歩き回って、出来るだけいろいろなジャンルの本を借りるようにしているのですが、やっぱりコトバ系の本だけは最低一冊は選んでいます。先日図書館へ行ったとき、『おっ、面白そう』と、思わず手にとったのが今回紹介する、

『都道府県別気持ちが伝わる名方言141』 真田信治 2005.1 講談社(講談社+α新書)

都道府県別気持ちが伝わる名方言141』 真田信治 2005.1 講談社(講談社+α新書)

です。タイトルの「気持ちが伝わる」がグッときました。もし『都道府県別名方言141』だったら、なんだか味気なくて、手にとっていなかったかもしれません。本書は、

第一部 日本語のバリエーション

第二部 県別・方言の風景

の二部構成になっています。本書のメインである第二部では、各都道府県ごとに、それぞれの県の自然・生活・性向などを表現するキーワードが「名方言」として3つずつ掲げられていて、47都道府県×3で計141の「名方言」が紹介されています。

さて、私はこの本を読む前、きっと都道府県ごとに切り分けられて、コトバが羅列されているんじゃないかと思っていたのですが、読み進めていくと、その予想はいい意味で裏切られました。項目は各都道府県ごとに区切られているのですが、その県や県の方言にまつわる著者のエピソードが語られながら、都道府県を横断する記述がなされていたのです。ある方言や言葉の形式をピックアップしたときに、それをその県だけのものとして閉じ込めてしまうのではなく、他の都道府県の言葉と関連づけながら説明されていたので、非常に面白く感じました。ここではすべてを紹介することはできませんが、私の住む関西に関する記述を幾つか取り上げてみたいと思います。

近畿方言

範囲 京都府丹後地方と兵庫県但馬地方を除く近畿地方の大部分、および福井県若狭地方

特徴 この方言の代表は大阪府と京都府の方言であるが、両方言の間にはかなりの相違が見られる。たとえば、「来ない」に対応する方言は、ケーヘン(大阪的)、キーヒン(京都的)である。ただし、最近はいずれにおいてもコーヘンという形が一般的になりつつある。「行かない・行けない」に対応する方言は、イケヘン・イカレヘン(大阪的)、イカヘン・イケヘン(京都的)である。また、尊敬語の「行かれる・来られる」に対応する方言は、イキハル・キハル(大阪的)、イカハル・キヤハル(京都的)である。(P25)

京都府丹後地方と兵庫県但馬地方は、中国方言の範囲に入っているそうです。

和歌山県

1 アガ(自分) 「アガのこととも知らんと」(=自分のことだとも知らないで)

2 ~ラ(~よ) 「今度、つれもて行こラ」(=今度、一緒に行こうよ)

3 アル(いる) 「人がよーさんアルのし」(=人がたくさんいるねえ)

奈良県

1 ~ミー(~ね) 「ほんでミー、あのミー」(=それでね、あのね)

2 キサンジ(素直なさま) 「キサンジなお子たちですなー」(=素直なお子さんたちですねえ)

3 モムナイ(おいしくない、まずい) 「このなんきん、モムナイなー」(=このカボチャ、まずいね)

滋賀県

1 カナン(嫌だ、やりきれない) 「ほんな厄介な仕事カナンわ」(=そんな厄介な仕事は嫌だよ)

2 ~ケ(~かい) 「ほ~ケ、ほなしよケ」(=そうかい、それならしようかい)

3 ダシカイナ(いいじゃないか) 「ほな、帰るわ」(=じゃあ帰るよ)「まあダシカイナ」(=遠慮しなくてもいいじゃないか)

京都府

1 ハンナリ(明るくて上品なさま) 「ハンナリしたお着物着たはりますなあ」(=上品な着物を着ていらっしゃいますねえ)

2 ホッコリ(ほっとするさま) 「せわしない用事もすんだし、ホッコリしおすなあ」(=忙しない用事もすんだので、ほっと一息つきますねえ)

3 ナムナムスル(平凡に暮らす) 「おかげさんで、まあナムナムシいたしております」(=おかげさまで、まあ何とかやっております)

大阪府

1 ボチボチ(そろそろ) 「ほな、ボチボチ行きまひょか」(=それでは、そろそろ行きましょうか)

2 ~ネン(~のだ、~のよ) 「いつまで飲んでるネン」(=いつまで飲んでいるんだ)

3 ~ンチャウ(~じゃない) 「そういうこととちゃうンチャウ」(=そういうこととは違うんじゃない)

兵庫県

1 ~テヤ(~ていらっしゃる) 「どこぞ、いとっターったんけ」(=どこかに行っていらっしゃったんですか)

2 イヌ(帰る) 「ほな、もうインでくるわ」(=それじゃ、もう帰るよ)

3 ゴーガワク(腹が立つ) 「ほんま、ゴーガワイたで」(=本当に腹が立ったよ)

本書を通じて、ハワイの日本語の特徴は、ハワイへの移住民を一番多く出した広島県の方言を基調にしていることや、旧陸軍が長州閥によってつくられたことで、軍隊に「~デアリマス」調の山口弁が普及したことなど、ことばに関する様々なエピソードを知ることができました。

私は「おおきに」という言葉が好きで、日常生活でもよく使うのですが、「おおきに」についての記述がありました。

ちなみに、「おおきに」を「とても」の意味で使う用法は浮世草子などの古典や明治時代に出版された和英辞書『和英語林集成』などにも見られる、いわば共通語であった。現代の関西での「おおきに」は、かつて全国的に存在した「おおきにありがとう」が縮まった言い方なのである。(P165)

面白いというよりも、すごいと思ったエピソードが載っていました。

一九八四年度には、研究室のゼミでのフィールドワークに紀ノ川流域を対象に選んだ。徳川宗賢先生も参加してくださった。和歌山(城)を陣地として調査をスタートした徳川方と九度山(真田庵)を陣地としてスタートした真田方が紀ノ川中流域で合流したのも懐かしい思い出である。(P140)

大阪大学で徳川先生と真田先生が方言の研究をされていたなんて、出来すぎていますが、これも事実なんですね。

私が本書に非常に好感を持ったのは、著者である真田さんの研究者としての真摯な態度と、それぞれの土地で生きる人々への暖かい眼差しが、その文章からよく伝わってきたからだと思います。すっかり真田さんのファンになってしまったので、きっと他の著作もこれから読むことになるでしょう。最後になりますが、読者として私が受け取った、著者の言葉に対する思いを書き記して、本書の紹介を終えたいと思います。

日本でも昨今さまざまな言語が行き交うようになった。そのような中で、母語によって自らを表現する権利と、地域社会にアクセスする権利という両面から、異言語間の相互理解の問題も取り上げるべき時が来ている。基本的な言語権を考えるために、また、偏狭なナショナリズムや少数派の切り捨てに対峙するためにも。

ちなみに、言語権というのは、母語ないし母方言によって自らを表現する権利、また母語ないし母方言による教育を受ける権利のことである。もちろん、方言コンプレックスもいまだ完全に解消したとは言えない。言語権に関して言語の場合と方言の場合とは同等なのである。(P3-4)

さて、地域での生活ことばというものに対して、私たちはどのようなスタンスをとったらいいのであろうか。

私は、まず自分自身のことばを見つめる、ということから始めるべきであろうと考えている。大切なのは、ひとりひとりが自分の日々のことばづかいに感受性を持つことである。ことばに敏感であることはすなわち生きることに敏感であることだと言ったら大げさであろうか。その心持ちは自然に他の人に不快感を与えない気配りの表現という形で現れてくるはずである。そして、もし美しいことばというものがあるとすれば、それこそが美しいことばと言えるものなのではないだろうか。(P159)

◎関連リンク◎

都道府県別 気持ちが伝わる名方言141(講談社)

真田信治のページ(大阪大学)

共通語取り込む 「ネオ方言」(YOMIURI ONLINE)

若者の方言ブームを探る(FMK EVENING JOURNAL)

新書マップ 方言

登録番号69 真田伝説の里 和歌山県九度山町(asahi.com 勝手に関西世界遺産)

・『方言の日本地図』 真田信治 2002.12 講談社(講談社+α新書)

はっちの太鼓本 太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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