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2007年1月 7日 (日)

28冊目 『地底旅行』

う~ん、なにかが足りない、生活に。それが一体何なのかは実は分かっている。そう、「ロマン」だ。成長し、学を得て、経験を積んでいくことは素晴らしいことだけれど、それは世界から「未知」という名の輝きを失わせていくことなのかもしれない。そんな私が手に取ったのは、その名前を聞くだけで子どもの頃のワクワクした気持ちが甦ってくる偉大な作家、ジュール・ヴェルヌの最高傑作である、

『地底旅行』 ジュール・ヴェルヌ 1997.2 岩波書店(岩波文庫)

地底旅行』 ジュール・ヴェルヌ 1997.2 岩波書店(岩波文庫)

でした。

物語は、「わたし」によって語られ、言葉が紡がれていきます。「わたし」は、伯父の助手を務め、地質学に強く引かれる青年、アクセル。ドイツのハンブルクで共に暮らしている、せっかちで癇癪持ちの伯父のオットー・リーデンブロック教授は高名な学者で、ヨハネウム学院で鉱物学の講義をもっています。

物語は、リーデンブロック教授が一冊のアイスランドの古書を手に入れたことから動き始めます。700年も前に書かれたであろうその本に、一枚のひどく汚れた羊皮紙が挟まっていたのです。謎の暗号を必死で解読しようとする教授。やがて「わたし」の行なった偶然も重なって、その暗号の意味が解き明かされます。教授は必死に止めようとする「わたし」の話に耳を貸さず、とうとう「わたし」を連れてアイスランドへ旅立ちます。アイスランドではハンス・ビエルケという旅のガイドを得て、三人は未知なる地球の中心を目指すのでした。

「優柔不断」で臆病なアクセル、「勇猛果敢」でその感情を顕わにし、目的に向かって猛進するリーデンブロック教授、「冷静沈着」で寡黙にして心強い仲間であるハンス。三人のそれぞれの人格が、この物語を現実離れさせずに私たちを地底世界に誘ってくれているように思いました。

アクセルは極めて一般的な感覚の持ち主で、こんな無茶な旅に参加することを最後まで渋ります。そのことが、読者を一時的に、「ロマン熱」とでもいうべきものから一歩引かせてくれて、それがこの冒険をより一層リアルなものに感じさせてくれるのです。

三人は地中の驚くべき世界へと足を踏み入れていくのですが、それは本当に作者が旅をしてきたのではないかと思えるほど、困難さと興奮が伝わってくる道程でした。道中、発見した川や海、港や島、岬に次々と名前を付けていく場面が私は好きです。

今回私が手にしたのは、朝比奈弘治さんが訳したもので、子どもの頃に手に取ったものとは違いましたが、失くしかけていた強烈な「ロマン」という灯火を心に掲げられた爽快な読後感がありました。朝比奈さんによる本書の解説も読み応えがありました。本書では原著を飾るリウーの挿絵もすべて収録されているのでおすすめです。

物語と直接関係はない場面ですが、素晴らしいなと思った一文がありました。それはアイスランドに到着し、リーデンブロック教授が文献を調査するために図書館を利用したところ、棚がほとんど空っぽだったと、アイスランドで博物学を教えているフリドリクソン氏に訴えた時の、その返答でした。

「ああ、リーデンブロックさん。本は国中を回っているんですよ。わたしたちのこの古い氷の島では、みんな学問の趣味をもっています。農夫も漁夫も、字の読めない者や、読まない者はひとりもいません。本を人々から隔離して、鉄格子のうしろで黴びさせるよりも、読みたい人の手のなかでぼろぼろにした方がいいと、わたしたちは考えているのです。そういうわけで書物は手から手へと渡り、ページをめくられ、次々に読まれて、図書館の棚に戻ってくるのは一年か二年後ということもよくあるのです。」(P111)

そうだ、この素敵な志を継いでいつかフリドリクソン図書館を作ろう。

『地底旅行』が最初に刊行されたのは1864年11月25日だそうです。妄想に終始するのではなく、深い教養と科学的な眼差しが垣間見れるヴェルヌの作品。名著は時代を超えてこれからも多くの読者から愛されるだろうなと納得した作品でした。

追記1:2010年7月5日(月)

昨日、日曜洋画劇場で「センター・オブ・ジ・アース」が地上波で初めて放送されました。ジュール・ベルヌの『地底旅行』をモチーフにしており、なかなか面白かったです。劇場公開時には、3Dだったんですね。

現在と比べると、特撮技術も格段に劣っていたはずですが、自分の中では、遠い昔に見た、「地底探検」の映像が不思議と今でも記憶に残っています。

映画『センター・オブ・ジ・アース』公式サイト

◎関連リンク◎

地底旅行(岩波書店)

Voyage au centre de la Terre(Jules Verne Page)

・『地底探険』 ヘンリー・レビン監督 2004.1 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

はっちの太鼓本 太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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