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2007年6月24日 (日)

41冊目 『ウェルカム・ホーム!』

早いもので、一人暮らしを始めてからもう6年が経ちました。習慣なのかそれとも意地なのか、出かける時と帰ってきた時の、「いってきま~す」と「ただいま~」を忘れない私が手にしたのは、

『ウェルカム・ホーム!』 鷺沢萠 2006.9 新潮社(新潮文庫)

ウェルカム・ホーム!』 鷺沢萠 2006.9 新潮社(新潮文庫)

という本でした。本書には、

渡辺毅のウェルカム・ホーム

児島律子のウェルカム・ホーム

という2つの「家族」の物語が収められていました。

毅は学生時代からの親友である英弘の家で、その息子の憲弘と3人で暮らしています。

住むところと経済力は持っているが、家事能力と家事のために割ける時間は持っていない男がひとり。住むところと経済力は失ったが、取りあえず料理はできて、その他の家事もこれから憶えられる時間的余裕のある男がひとり。そういうふたりが一緒に住む、というのはたいへんに合理的なことだと思わないか、タケシ。

英弘のその提案は、毅にとっては「たいへんに合理的なこと」というよりは正直に言って「渡りに舟」だった。(P46)

毅をもうひとりのお父さんとしてタケッパーと呼ぶ小学6年生の憲弘、そして忙しく働いている毅の恋人・美佳子。英弘、憲弘、美佳子と過ごす日常の中で、毅の中に渦巻いていた「イヤーな感じ」の原因が明らかになっていきます。

毅の目を通して浮かび上がってきた、それぞれの生き方や考え方の違いに、『う~ん、そうか』と頷きながら、こうして彼らは本物の「家族」になっていくんだな、「家族」は生まれていくんだなと感慨深く思いました。

毅が気づいた、「沽券」というやっかいなもの。メンツやプライドとの内なる葛藤を経た毅は、4人で着いた食卓で涙が出るほど笑いました。締めくくりの憲弘の作文がこの「家族」を明るく照らしていました。

律子は2度の離婚を経験しているアメリカ帰りのキャリアウーマン。そんな彼女の元に突然、拓人という青年が訪ねてきたところから話は始まります。

「僕、セイナさんと結婚しようと考えている者です」

瞬間、頭の中が真っ白になった。(P141)

時を遡りながら語られていく律子の過去、そして聖奈との出会いと暮らし。思いは伝わらなかった、と思っていた。でもずっとお互いが思いあっていたと分かったとき、時間は再び二人のために流れ出したのでした。

自分の肩の上に、巨きな巨きな手が置かれたのを律子は感じた。信じられないくらい暖かいその手は、今度はほんとうに、自分を赦してくれている。

暖かく巨きな手の持ち主は、これまた信じられないくらい暖かい声で、律子に向かって囁くように言ってくれていた。

――もういいんだよ。よく帰ったね。お帰りなさい。

ただいま。そしてありがとう。赦してくれてありがとう。思うのだが、ことばにはならない。(P239)

人は生きていく中で誰かを傷つけもするし、思いが伝わることのないまま別れてもいく。それでもそんなたくさんの痛みを伴った過去を背負いながらも生きていこうとする人たちに、暖かな人とのつながりが築かれてゆき、やがてそれは新たな「家族」となってそこが私の帰る場所になっていく。

「おかえり」っていう言葉がどれほど大きなものなのかを私はかみしめながら本を閉じました。そっと「おかえり」と口にして。

◎関連リンク◎

ウェルカム・ホーム!(新潮社)

鷺沢萠公式サイト Office Meimei

ウェルカム・ホーム! 今月の新刊採点(WEB本の雑誌)

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