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2007年7月17日 (火)

43冊目 『夕凪の街 桜の国』

その日、一つの都市が一瞬で廃墟と化し、人々は生きたまま地獄の業火に焼かれ崩れた。60数年前のあの日は、この空が途切れることなく遠くの国へと続いているように、確かにこの現代と繋がっている。あの日はあれから終わっていない、終わりなどなく、おそらくこれからも人類と寄り添い続けていくのであろう。命のバトンが引き継がれていく限り…。私が手に取ったのは、

『夕凪の街 桜の国』 こうの史代 2004.10 双葉社

夕凪の街 桜の国』 こうの史代 2004.10 双葉社

という本でした。

夕凪が吹き抜ける街を裸足で歩く皆実。彼女の笑顔と天真爛漫な素振りは、きっと多くの人の心を掴んだことでしょう。年頃の皆実には打越さんという気になる職場の同僚がいて、二人は近づきそうで近づかない。皆実、どうして。

そう、皆実は現代を生きてはいなかった。皆実が生きていたのは、原爆投下から10年が経った広島の地だった。もしも皆実と打越さんが時代と場所を越えて出会えたのならば、二人の未来は違ったものになっていたのかもしれない。

どうして皆実はこんな目に遭わなければならなかったのか。そうだ、きっとそうなのだ。「皆実」と同じように、あの日広島にいた数十万人の一人ひとりが、そんな思いの中で命果て、そして生きてきたのだ。原爆は数十万人の名も無き人々に投下されたのではなく、自分を生きていた「私」に投下された。

私は生きている、けれども私は死んでしまった。私は死んだはずなのに生きている。幸せになりたい…もっと生きたい…。

命は悲痛に叫ぶ、そして私の目が再び何かを映すことは二度となかった。

あの日を境に失われてしまったたくさんの命のバトン。命は繋がっている、だから私たちの命もやはりあの日と繋がっている。あの日は終わってはいない。

桜の国に住む七波と凪生の物語、それはあの日からすっかり時間も空間も遠くなってしまったところで語られる。二人が子どもの頃にチラッと垣間見られた何かの影は、時を現代に移し二人を大人にしたとき、色濃くなって現れたのだった。

夕凪の街の中で私は頁を繰りたくなかった、なぜならその先にはただただ深い悲しみが予見されるだけだったから。私は17頁のあたりを何度も行き来してみた。けれど、時が止まったり何度も繰り返すことは現実ではないのだと改めて痛感した。

私が先へ行くことを渋っても、時は流れてきたのだということ。あの日から、時は止まることなく流れてきたのだということ。たくさんの終わらない物語が終わらないまま今もあるのだということ。

広島の、「ヒロシマ」。原爆ドームの前に立ったとき、それは建物だけれども、「時間」なのだと私は感じました。目の前には「その日」がありました。原爆が「与えた」ものなんてあるのだろうか、「奪った」ものの多さを思いながら、水と緑に潤った平和公園を歩きました。平和記念資料館内の売店には、『はだしのゲン』と並んで、本書がたくさん置かれていました。

今月には映画も公開されます。皆実と七波、時代を超えて語られる二人の物語を前にしたときに、自分の心に映ったものを大切にしないといけないと思いました。

追記1:2007年7月28日(土)

今日から全国で公開が始まった「夕凪の街 桜の国」ですが、私も早速映画館に足を運んできました。物語の展開は若干コミックス版と設定等が変わっていましたが、登場人物たちが口にする台詞の重さを目の当たりにし、何ともいえない思いにとらわれながら鑑賞しました。

皆実役の麻生久美子さんと打越役の吉沢悠さんのやりとりがとても素敵で、願いが叶うことなく皆実の命が朽ちてしまったことに改めて心を締め付けられました。「桜の国」編では、ラストシーンで七波役の田中麗奈さんが見せた素直な涙に思いが溢れだして、素晴らしい劇中音楽とあいまったエンドロールで涙を堪えることは出来ませんでした。

◎関連リンク◎

夕凪の街 桜の国(双葉社)

インタビュー こうの史代(Yahoo!ブックス)

今月のプラチナ本!『夕凪の街 桜の国』(WEBダ・ヴィンチ)

平成16年度 文化庁メディア芸術祭 大賞 夕凪の街 桜の国(文化庁メディア芸術プラザ)

第9回手塚治虫文化賞 新生賞 『夕凪の街 桜の国』(asahi.com)

映画『夕凪の街 桜の国』

原作者 こうの史代さん インタビュー(映画『夕凪の街 桜の国』 Official Blog)

映画「夕凪の街 桜の国」に込める思い(YouTube)

・『小説 夕凪の街 桜の国』 国井桂 2007.7 双葉社

広島を歩く(2007年3月4日)

はっちの太鼓本 太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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» はだしのゲン [はだしのゲン]
昔週間少年ジャンプで連載されていた、原爆のさなかを生きる少年たちの物語のはだしのゲンについて語るブログです。興味のある方はぜひご覧ください。 [続きを読む]

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