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2007年9月23日 (日)

53冊目 『夏の葬列』

それが自分にとって大切な出会いであったと気がつかないまま、ずっと後になってから気がつくということ。たとえ長い時間が過ぎてしまっていたとしても、そのことに気がつけたことは幸せなことなのかもしれません。そんなことを思ったのは、今回紹介する、

『夏の葬列』 山川方夫 1991.5 集英社(集英社文庫)

夏の葬列』 山川方夫 1991.5 集英社(集英社文庫)

という本を手にしたことがきっかけでした。

本書の表題作となっている「夏の葬列」は、中学生の頃に国語の教科書に載っていたので、それが私にとって作家・山川方夫さんとの出会いだったわけです。しかし、この作品がもっていたなんともいえない罪の意識の情景や戦時中を描いていたということが、この出会いを私から遠ざけてしまっていたのです。最近になって、そういえば昔学んだ「夏の葬列」をもう一度読み直してみたいと思ったのがきっかけで本書を手にしました。

目次を見てみると、

夏の葬列

待っている女

お守り

十三年

朝のヨット

他人の夏

一人ぼっちのプレゼント

煙突

海岸公園

という作品が収められています。前半の作品は短編、いわゆるショート・ショートと呼ばれるものが並んでいますが、後半の2作品、煙突と海岸公園は中編といえるくらいの文量があります。

先に本書を読んでの感想を言うと、私は山川さんの作品を全部読んでみたい衝動に駆られるほど感銘を受けました。中学生のときに作品から感じた「罪深さ」が、読み手の私が変わったためなのか、敬遠したいものではなく、生きていくうえで受け入れていかなければならないものと感じられ、作品には著者自身の、様々な苦悩を抱えながらも生きていく生き様が映し出されているように思え、そのことに好感が持てました。

作品の内容もさることながら、その美しい言葉遣いにも惹きこまれました。作品の中で、最も感銘を受け、何度も読み返してしまった「朝のヨット」という作品にこんな一文があります。

黒い海は、やがてその底の蒼緑色と、表面の波立ちとをあきらかにし、舷に散る白い飛沫を縫い、ほのかに細い虹の脚が明滅した。糠雨のようなこまかな繁吹が少女の頬を濡らして、そのくせ澄んだ浅い色の空は、その日の上天気を約束していた。(P53)

この「朝のヨット」という作品では鴎が重要な役割を果たしているのですが、この作品の素晴らしさと鴎という組み合わせから、私はある句を思い出しました。それは、以前『遅読のすすめ』という本で知った、三橋敏雄さんの、

かもめ来よ天金の書をひらくたび

という句です。本を開くとそこに現れるカモメの姿。私にとって、カモメは読書とは切ってもきれない存在になってしまったようです。そういえば、記事のタイトルのところにも一羽ずつカモメが降り立っていたことに今更ながら気づきました。

本書の巻末に展開されている、解説、鑑賞、年譜の各コーナーも興味深かったです。34歳のときに交通事故により、あまりにも短いその生涯を閉じられた山川方夫さんを惜しみながら、後世に生きる私は、残された作品を大事に読み継いでいきたいなと思いました。

◎関連リンク◎

夏の葬列(集英社)

・『安南の王子』 山川方夫 1993.10 集英社(集英社文庫)

はっちの太鼓本 乱打太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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コメント

こんばんは。ここに登場するのは久しぶりです。
いよいよ忙しいと思いますが、なんとかお元気にやっていますか?
 今日は突然本が読みたくなって、本屋めぐりをしていました。
仕事しだしたら、永遠に続くんだけど、毎日毎日ずっとがんばっても、なかなか実り少ない日々です(汗)
 職員集団が育たないので、一人必死こいてがんばっているのがあほみたいに思えてしまった今日…。
 そんなこんなで、本が読みたくなったのかもしれません…。(笑)
 あぁ~、愚痴を書きに来たのではないのだけど…すんません。
書くところを失ってしまったのが大きいのか!?
 またフラァ~ッと遊びに行きます。
 今日は「蟲師」という映画を見ました☆☆

投稿: おうじ | 2007年10月 8日 (月) 00:12

今に始まったことじゃないけれど、しばらくは頑張らないといけない日々が続きそうな今日この頃(^-^)>

何とか毎朝、今日が初出勤だと思って気持ちだけは風通しよく出社しようと思ってます。今の会社では同僚、特に同い年の同僚とコミュニケーションがうまくとれてて、そのことにはかなり救われてます。

また遊びにいって語りませう!おうじの活躍を陰ながら見守っていきます。

また読書情報などあれば来てね~

投稿: 朔風はっち | 2007年10月21日 (日) 21:54

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