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2007年9月16日 (日)

51冊目 『八月の博物館』

残すところあと半月。勤務している会社が10月に大きく変革されるのを前にして、社内は嵐の前の静けさならぬ、嵐の前の嵐状態です。長引く暑さと疲労で、しばらくの間、通勤時もなかなか思うように読書に耽ることができませんでしたが、朝晩に涼やかに聞こえてくる虫の音に耳を澄ませてみたり、枯れ葉が地面を擦れながら流れていく様子を眺めたりしていると、叙情の秋到来に胸が高鳴るのを感じます。そんな私が今回手にしたのは、

『八月の博物館』 瀬名秀明 2006.10 新潮社(新潮文庫)

八月の博物館』 瀬名秀明 2006.10 新潮社(新潮文庫)

という本でした。角川文庫版もあるようですが、私は新潮文庫版の装丁に惹かれてこちらを選びました。

さてさて、本書を読み始めたわけですが、しばらくして頭の中が『えっ?』な状態に。プロローグを読み進めながら徐々に物語の中へ入り込んでいた私にとって、急に現実に振り戻されるような展開が待っていたのです。『えっ?物語の外に放り出されちゃったよ』と、折角入った世界に冷や水を浴びせられたことに戸惑いながらも、この本は一体どうなっているのか知りたいという思いで、続きを読んでいきました。

小学六年生の亨は、今までとは違う一歩を踏み出したことで、森の中に不思議な建物を見つけます。「THE MUSEUM」と記されたプレートが掲げられたその建物の中で、亨は美宇という少女と出会うのですが、二人にはその後大変な出来事が待ち受けていたのです。果たしてこの謎の建物は何のために作られたのか、そして美宇はどこからやってきたのか。

こうしていつものように少しずつ物語に浸っていきながら胸の高まりを覚えている読者をよそに、物語を現実的な視点で分析し、語っていこうとする作家の「私」。この「私」の存在が亨たちの世界を色あせたものにしているのではないかと思いながらも、辛抱強く物語に連れ添っていったことで、「私」がこの物語を物語らねばならなかった必然がやがて明らかになります。

と、ここで忘れてはならない物語の主役がもう一人、本書の冒頭で登場するエジプト考古学者のオーギュスト・マリエット。時代も場所も全く違う今を生きている、亨とマリエット、そして「私」。謎の博物館の存在がやがて彼らを結び付けていくのですが…。

文庫ながら600ページを超す本書、物語は終盤ついに加速し始めます。「私」と亨の世界に引かれているはずの境界線は揺らぎ、本書で物語られてきたことについて、「私」の存在と物語の謎が一緒になって溶け出していきます。エジプト考古学、そして博物館の歴史、物語を通して垣間見ることができたその分野についての多くの記述に、物語という枠を超えて興味を抱きました。

最初、読み進めるのに時間がかかりましたが、最後まで読み通してみて不思議な読後感を味わうことができました。

◎関連リンク◎

八月の博物館(新潮社)

瀬名秀明の博物館

企画展示室『八月の博物館』(瀬名秀明の博物館)

十一月の春秋誌(YAMAGATA Hiroo)

もったいない、again。(YAMAGATA Hiroo)

【時空】『八月の博物館』瀬名秀明(Augustrait)

『八月の博物館』(八方美人な書評ページ)

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