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2008年2月 2日 (土)

56冊目 『ためらいもイエス』

自分は一体、何を大事にして、何を伝え、何を残したいのだろうか。

それをうやむやにしたまま、向き合わないまま、時間だけがどんどん過ぎ去っていく。感性は鈍り、言葉は輝きを失い、自分はこのまま消滅してしまうんじゃないだろうか。

どんな小さなことであれ、何かを創り出していくということは、悩んだり、自己嫌悪に陥ったり、なにかしら苦痛を伴うものである。しかし今、それを避けてしまえば、二度と取り戻せなくなっていくものがある…。

一歩。踏み出したい。

ちょっと大げさですが、体に力が入らなくなってしまった感じです。ふんばりが効かなくなってきたというか、生活の流れを変えていかないと、持ちこたえることができないんじゃないかという不安もあります。正直、自分で自分を閉じ込めてしまっている部分も多々あり、もっと素直に生きられたらどれだけ楽になれるだろうかとも思いますが、それはなかなか難しいことです。

すいません、今そんなに暗い気持ちではないんですが、なんでしょう、困っちゃうな~、参っちゃったな~、くらいのしんどさが続いております。そういえば、最近物事をあんまり深く考えなくなったなということに気づかされます。そんなことも疲れと関係しているのかもしれません、はい。困っちゃいましたね。

いつもならここで、前段をひっくり返してしまって笑いのほうに持っていきたいところなんですが、今日は無理に繕わずに、素直にしんみりと綴ってみようと思います。

で、なんでしたっけ、そうそう年が明けてからぼちぼち本を読んでいますが、またその感想を書いてみようという気持ちが起こってきたわけでして。今回私が手に取ったのは、

『ためらいもイエス』 山崎マキコ 2007.12 文藝春秋(文春文庫)

ためらいもイエス』 山崎マキコ 2007.12 文藝春秋(文春文庫)

という本でした。

出だしから続くテンポのよい文章に、以前、同じ著者の『さよなら、スナフキン』を読んだ時の感覚が思い出されて、やっぱり山崎さんの本、自分は好きだなと思いました。

主人公の三田村奈津美はもうすぐ29歳。ベンチャー企業で特許関連の翻訳の仕事をしており、近々昇進の話も。社内には仲の良い後輩の青木真美子がいて、お互い「青ちゃん」「姐さん」と呼び合っている。三人姉妹の真ん中である奈津美に、いっこうに色気のある話がない様子なのを不安に思った母親から送りつけられてきたお見合いの釣り書き。このお見合いが仕事一筋だった奈津美の人生を変えることにつながっていく。

しかし、生まれてはじめての、お見合いの、相手である。

すこし胸が高鳴る。

わたしとて、王子様があらわれると思うほどには乙女ではないが、ちょっとくらいは期待がある。ホームに滑り込んできた地下鉄に乗り込み、座席に座り、封を切る。

あんまり格好良すぎる人でも困る。釣り合いがとれないしね。

ドキドキしながら写真を取り出してみた。その瞬間、わたしは仰天した。

こっ、これは!

――魚?

(中略)

こんな、こんな――魚のような風貌の男の人がわたしの初めての、お見合いの相手。

お見合いの相手はギンポ!(P32)

ギンポ

「ギンポ」君との出会いもありつつ、社内のトライアスロンサークルに参加している中野さんが不思議と気になりだした奈津美。幾つもの出会いが少しずつ奈津美の心を開かせ、自分を素直に表現させていきました。

いままで私が封印していたもの、それは喜怒哀楽だった。わたしは自分で自分をコントロールしたくて、感情を心の箱に入れ、封印していたのだ。だから愛や恋とも無縁の世界にだけ、身を置いた。

そうだ。わたしは、こうなりたくなかったから仕事に依存していたんだ。(P168)

自分の誰にも言えなかった心のうちを初めて話せたことで、奈津美はこれまで自身に訪れることのなかった青春の日々を味わいます。しかし、それはやがて当然とも言える結末へと向かっていくことになります。

多くのものを得て、そして多くのものを失うということ。たとえそれでゼロになってしまったとしても、何もしなかったからゼロとはまったく意味合いが違うと思います。

時に鋭い言動を奈津美に投げかけ、待ってくれているギンポ君、「姐さん」思いの底抜けに明るくてポジティブな青ちゃん。登場人物のキャラクターの豊かさとテンポの良いストーリーにすっかりやられてしまいました。

終盤は、奈津美の家族内の問題も絡ませながら、感情が激しく動く展開で、やがて悲しみもやってきますが、それでも再生していこうとする奈津美の姿が最後に脳裏に焼きつきました。

◎関連リンク◎

ためらいもイエス(文藝春秋)

本の話より 自著を語る(文藝春秋)

38冊目 『さよなら、スナフキン』(2007.6.16)

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