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2008年5月24日 (土)

59冊目 『銀の犬』

少しずつ、少しずつ変わっていく日常。

風が若い緑に薫る季節の中にあって、じりじりとした日差しとともに、初夏の体を纏る暑さを感じるようになってきました。

この数カ月ずいぶんと本を読みました。しかしそれは、以前のような余裕のある読書というよりは、目まぐるしい日常とのバランスを保つための切羽詰まったものであったような気もします。

自分が生きる世界とは全く違う世界を生きる「人」たちがそこにいる。胸にじんと沁みていった物語は、ゆっくりと醸成され、私たちが生きる現実と相俟って、着実に記憶の層を成し、ふとなにかの拍子に現れては、ひどく懐かしい気持ちにさせてくれる気がします。

今度はどんな世界を生きる「人々」に出会えるのだろうか。そんな思いで今回私が手にしたのは、

『銀の犬』 光原百合 2008.5 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

銀の犬』 光原百合 2008.5 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

という本でした。以前からずっと読みたいと思っていた作品でしたが、本屋さんの店頭で文庫版として出版されているのを見かけるやいなや、すぐに手に取っていました。吉田愛里さんの装画がとても素敵で、物語の幻想的な雰囲気と非常によく合っているなと思い、じっと見てしまいました。

物語は、伝説の楽人(バルド)と同じ名前を持つ祓いの楽人「オシアン」と、彼とともに旅をする相棒「ブラン」の二人が行く先々で出会う人々との交流を描いています。

人々に降りかかる災厄を打ちはらう「祓いの楽人」。オシアンは竪琴を奏でることで、あるべき様から外れたものに調べを聞かせ、行くべきところに旅立たせていきます。

本書では5つの話が語られており、それぞれ、

第1話 声なき楽人

第2話 恋を歌うもの

第3話 水底の街

第4話 銀の犬

第5話 三つの星

とタイトルがつけられています。

「声なき楽人」は、楽人の技量をもちながら非業の死を遂げたフィルと、そのいいなずけで幼なじみのモードの物語。

「恋を歌うもの」は、妖精族には珍しく異なる種族の間に生まれたガンコナーのイシルと、かつて呪い師だった父を持つローズマリーの物語。

「水底の街」は、会いたい者に必ず会えるといわれている不思議な街・イースにやってきたロディと、その妻であったアーニャの物語。

「銀の犬」は、獣使いのジョーと大きな農園主の娘リネット、そして狼の血をひく犬クーの物語。

「三つの星」は、幼いころから城で実の兄妹のように3人で過ごしてきた、王子トゥリン、武芸の天分があったフィン、そして王子の妃となるディアドラの物語。

私は水底の街が一番心に沁み入りました。大切なものを失ってしまう悲しみ、そして出来ることなら時間を遡って失われてしまうものの運命を変えたいという思い。物語の終わりにブランがロディに対してかけた言葉の澄んだ輝きにグッときました。ロディにとって懐かしいものであったその言葉が、彼をもう一度彼が生きていくべきこれからの世界に立ち返らせたのだと思いました。

無口なオシアンと快活なブランの抜群のコンビネーション、そしてある物語をきっかけとして二人の旅に大きく関わっていく獣使いのヒューと相棒の黒猫トリアムーアの存在もこの作品の素敵な要素の一つです。

物語の随所にオシアンとブランのこれまでや出会いについての謎が散りばめられており、ぜひとも続編が期待されますが、作者の光原さんが文庫版のあとがきで述べられているとおり、気長に待ちたいなと思います。

◎関連リンク◎

銀の犬(角川春樹事務所)

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