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2009年1月11日 (日)

61冊目 『花が咲く頃いた君と』

会社のすぐ近くに小さな川が流れているのですが、時々昼休みにその川沿いをぶらぶらと歩いています。川といっても、本当に穏やかな川で、さらさらと流れていく水の音も心地よいのですが、何より川沿いに植えられている様々な植物に癒され、ほっとするのです

春には桜が満開になり、梅雨には紫陽花がしっとりと咲き、夏には青々と茂った木々が木陰を作り、セミたちが大合唱する中、川沿いを涼風が吹きぬけます。秋には美しい紅葉が見られ、冬は牡丹の花が美しく咲いています。もともと川が好きだった私ですが、この川沿いを含めて、今のところ一番好きな川です。

さて、今年はじめに手に取ったのは、桜が咲き誇る美しい装丁の、

『花が咲く頃いた君と』 豊島ミホ 2008.3 双葉社

花が咲く頃いた君と』 豊島ミホ 2008.3 双葉社

という本でした。この本は、

サマバケ96

コスモスと逃亡者

椿の葉に雪の積もる音がする

僕と桜と五つの春 

という4つの物語から成っていて、それぞれの物語にモチーフとなる花があります。

「サマバケ96」は、中学3年生の夏休みを迎える「ユカ」と「アンナ」の揺れる友情を描いた物語。

「コスモスと逃亡者」は、高校を卒業してから家で退屈に過ごす「たから」と、何者かに追われている若い「おじさん」の物語。

「椿の葉に雪の積もる音がする」は、自分の名付け親であり椿好きな「おじいちゃん」と、私「雁子」の物語。

「僕と桜と五つの春」は、誰の目にも留まらない桜を見つけずっと見守っていく「吉谷」と、桜の気配がした同級生「カナハギ」さんとの物語。

劣等生だけど、心の中にある素直で純粋な「美しい桜」を真っ直ぐに育てていく「吉谷」と、顔立ちは綺麗だけれど口から出てくる言葉が辛辣極まりない「カナハギ」さん。一本の人目に付かない桜の木を通した彼らの人生の交差は、ほろ苦い痛みを経て素敵な結末に至ります。

私が一番心を掴まれたのは、「椿の葉に雪の積もる音がする」でした。自分も子どもの頃から祖父母の家に遊びに行くと、おじいちゃんの部屋で寝ていたので、その頃のことを思い出しながら読みました。

中学2年生の「雁子」と小学6年生の「雪助」、その両親とおじいちゃんという家族の中にあって、微妙な存在となっている「おじいちゃん」。

私は何かおじいちゃんと話そうと思う。でも、ラルフローレンの話も、髪がサラサラになるシャンプーの話も、どれもおじいちゃんには通用しない気がして、どうしても口が開かない。(P128)

小さい頃、おじいちゃんの部屋に行くと『日本椿集』という本をよく見せてもらっていた雁子にとって、椿は「好き」なおじいちゃんとの大切な絆ともいえるものだったのでしょう。雁子が椿の花に興味を持っておじいちゃんに話しかけるときの、おじいちゃんの嬉しそうな心の内が想像できました。

別れは突然にやってきます。現実を現実と感じられない雁子。しかし、ふと手にした欲しかったものが、逆に失ったものの大きさを否応なく雁子に突きつけたのでした。

誰もがその人だけの物語を持っています。たくさんの人や、もの、出来事と出会い、自分という世界を広げながら、私という物語を紡いでいく。その物語は時に他の誰かと共有され、また他の誰かに引き継がれていく。そうやって連綿と物語が続いていくのなら、私という語り手が世界から失われようとも、そこに悲しみではなく希望が見いだせるのではないかと感じました。

外の光の中で、椿の赤い花は燦然と輝いていた。それはもう鮮やかで、ずっと目の裏に焼き付きそうなほど。

――聞こえんか。椿の葉に雪の積もる音がする。(P160)

◎関連リンク◎

花が咲く頃いた君と(双葉社)

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コメント

新年あけましておめでとう
また新たに始動ですね!

最近は「精霊の守り人」をコミックで読みました。
ドラクエ好きな人ならよく知っている漫画家です。
藤原カムイさん、きっと知っていると思います。
小説で読むほうがいいんだろうけど、思わず買ってしまいました(笑)

それから、相変わらずですが、「5年3組りょうた組」という本も読みましたよ!なかなかでした

また参考にさせてもらって、本をぼちぼち読もうと思います。
でも今年はしっかり体を作る(維持する?)が目標です
俺も少しずつ…ですが、がんばろうと思います。

どうぞ今年もよろしく

投稿: おうじ | 2009年1月12日 (月) 12:53

おうじ、明けましておめでとうございます
今年も宜しくお願いします

去年は上橋菜穂子さんの作品を7冊読みました。すっかり上橋さんの作品の世界にはまってしまったようです。

守り人・旅人シリーズは、新潮文庫で出ている4冊を読んだけど、先日の記事でも書いたように、『闇の守り人』は年間を通して一番心に残った作品でしたよ

ダ・ヴィンチ2月号の情報によると、『獣の奏者』の続編が今年8月に出版されるそうで、こちらも楽しみです。

不思議と近年は読書が小説・物語に寄ってきているんやけど(おそらく通勤時間にすっと読めることと、どうしても読書が手軽な文庫になってしまうからかなぁ)、今年は思索する時間も増やしたいので、またいろんな方面の本を読みたいところです。

お互いの職場で今年もがんばろね!

投稿: 朔風はっち | 2009年1月12日 (月) 22:35

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