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2009年3月14日 (土)

66冊目 『まほろ駅前多田便利軒』

世の中には数多くの職業が存在していますが、いわゆる「便利屋」といわれる職業ほど幅広い依頼を仕事として引き受ける職業はないのではないかと、これまで何度かテレビの特集等でその仕事ぶりを垣間見てきて、そう思っています。

今回私が手にしたのは、

『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん 2009.1 文藝春秋(文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん 2009.1 文藝春秋(文春文庫)

という本です。

多田啓介は、まほろ駅前で一人で便利屋を営んでいます。新年早々、大晦日に依頼された犬の世話をしつつ、バスが間引き運転されていないか調査を依頼された多田は、その仕事帰りにふとしたきっかけで、ある因縁のある男と出会います。その男の名前は、行天(ぎょうてん)春彦、まほろ高校での同級生でした。

多田が冷酷にしなる鞭のごとき沈黙で応じても、行天は少しもこたえなかったらしい。好き勝手にしゃべりつづける。

「なんで『多田便利屋』じゃなくて『多田便利軒』にしたの?語呂が悪いから?『便利屋多田』だと、やっぱり『便利屋タダ』みたいだしね」(P28)

今晩、事務所に泊めてくれと頼んできた行天に対して、一度は断った多田でしたが、思うところがあり、結局今晩だけだと行天を事務所に案内します。二人の間には高校時代に何かがあったようで、それを気にしている多田と、なんでもない風な行天。多田は一晩だけのつもりでしたが、行天は何故かを明かさぬまま、その後事務所に居ついてしまいます。

行天の破天荒な言動と振る舞い、それは行天の高校時代を知る多田にとって驚きであり、これまでどのように生きてきてここに至ったのかなどすべてが謎に満ちたことでした。勝手に仕事についてきては時に無茶苦茶なことをし、時に力となってくれる行天という存在が、次第に多田便利軒に溶け込んで自然なものとなっていきます。

さてここらで一服して、目次を紹介しましょう。

0  曽根田のばあちゃん、予言する

一 多田便利軒、繁盛中

二 行天には、謎がある

三 働く車は、満身創痍

四 走れ、便利屋

四.五 曽根田のばあちゃん、再び予言する

五 事実は、ひとつ

六 あのバス停で、また会おう

様々な、時に厄介な仕事を引き受けてきた多田たちでしたが、北村周一からの「生みの親」のことを知りたいという依頼が、多田自身の暗い過去を思い出させ、苦しめることになり、またその依頼に対する行天との意見の相違から、なんとか二人でやってきた関係が崩れていってしまいます。

急にすべてをぶちまけたくなった。だれにも言えなかったこと、言いたくなかったことを、行天に知らしめたくなった。

だが、口を開いても、なにも言葉は出なかった。それは鳴き声すら持たぬ岩のように冷えて、心のなかにあるばかりだった。(P299)

果たして、多田は自身の過去と折り合うことができたのか、そして多田にとって行天の存在は何だったのか。

やや社会からの逸脱を感じさせる行天でしたが、多弁になった彼の言動の中に、時々人を射抜くような、率直で真っ当な深みのある一言が発せられるのも印象的でした。

多田と行天、全く違う道を歩んできた二人の人生が交差した便利軒での日々がもたらしたもの。ずっと癒されることのなかった、多田の悲しみとやりきれなさ。文庫版で本作品の解説をされている鴻巣友季子さんの文章を読んで、「幸福は再生する」と結んだこの作品に対する理解がより深まりました。

不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。(P288)by行天

追記1:2009年10月18日(日)

新聞広告で、続編となる『まほろ駅前番外地』が先日発売されたと知りました。文庫化されるまで待とうかな~。

◎関連リンク◎

まほろ駅前多田便利軒(文藝春秋)

まほろ駅前番外地(文藝春秋)

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