« 63冊目 『四畳半神話大系』 | トップページ | 本の本 »

2009年3月 1日 (日)

64冊目 『夜は短し歩けよ乙女』

という訳で、昨日に引き続き、月を跨いで紹介させていただきますのは、花粉症の方には必須であるティッシュペーパーを思わせるような落ち着いたホワイトを背景にして、色鮮やかに浮かび上がるリンゴがあしらわれた表紙の、

『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦 2008.12 角川書店(角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦 2008.12 角川書店(角川文庫)

という本です。

出版順だと『四畳半神話大系』の方が先になるのですが、いろいろと評判の良さを伝え聞くことが多かった本書を先に読みました。個人的にはタイトルとして、こちらの方が手にとってみたくなるのではないかと思います。『四畳半神話大系』は読んでみると相当面白かったですが、如何せんタイトルがちょいと硬かったので、せっかく素晴らしいネーミングをされていた「もちぐま」や「猫ラーメン」が前に出てきても良かったのではないかと思ったりしました。

さて、本書の目次を参照してみると、

第一章 夜は短し歩けよ乙女

第二章 深海魚たち

第三章 御都合主義者かく語りき

第四章 魔風邪恋風邪

となっています。

物語の舞台は京都の大学で、『四畳半神話大系』に登場する人物や団体が一部シンクロしていることから、時系列は不明ながら同じ大学であると思われます。

物語は先輩である私と、私が一目惚れした後輩の黒髪の乙女の二人が、それぞれの視点でお互いにある日の出来事を語っていくことで、その世界が立ち現れていくというスタイルで進行していきます。出だしの「おともだちパンチ」の解説、早速ですが彼女の人となりが伝わってくるようでした。

第一章では、先斗町(ぽんとちょう←ちゃんと一発変換できました)界隈を舞台とした一夜の出来事が語られます。後輩である彼女と未だに親しく言葉を交わすことができずにいた私は、この日なんとかきっかけを作ろうとするものの…。

役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち回るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。(P7)

彼女はこの夜、個性的ないろいろな人物との出会いを果たすのですが、その中には『四畳半神話大系』に登場した樋口師匠や羽貫さんの姿もあり、こういうシンクロをさせる作家さんは伊坂幸太郎さんなどたくさんいらっしゃいますが、読んでいて楽しくなりますね。

ん?今更かもしれませんが、歯科衛生士の羽貫さんって、もしや歯抜さん?

本作の特徴としては、章ごとにその舞台がガラリと変わるところにあります。どこかを行ったり来たりではなく、その場所であった出来事がつらつらと語られます。下鴨の古本市では絵本を手に入れるために、真夏に汗に汗する死闘が繰り広げられ、大学祭ではゲリラ演劇を巡る死闘が繰り広げられ、その中で私は着実に彼女との外堀を埋めているように思っていたのですが、彼女はオモチロイことに無我夢中で…。

個人的には、第三章のパンツ総番長の恋が面白く、しかもちょっとグッときてしまいました。正直、どんなにベタだ御都合主義だと言われても、ハッピーエンドを読みたいですよ。とにかくいろいろと無茶苦茶なのに物語が破綻せず、最後まで一気に連れて行ってくれた最高のお話でした。コミック版も発売されており、森見さんブームの牽引役ともいえるこの作品が文庫化されたことで、まだまだ注目されていきそうな気配です。

そうだ、あの一節はメモっておこう。

テントの屋根を叩く雨音を聞きながら、私は書棚を漁り、竹久夢二の文集に眼を留めた。手にとってぱらぱらとめくっていると、一篇の詩が目に入った。

人をまつ身はつらいもの

またれてあるはなほつらし

されどまたれもまちもせず

ひとりある身はなんとせう。(P265-266)

う~ん、まるで塩キャラメルのような味わいの作家さんです。

◎関連リンク◎

夜は短し歩けよ乙女(角川書店)

今月の編集長フェア 角川文庫創刊60周年記念企画(森見登美彦)

作家の読書道:第65回 森見登美彦さん(WEB本の雑誌)

この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ

竹久夢二「夢のふるさと」(つれづれの文車)

・『ラ・タ・タ・タム ちいさな機関車のふしぎな物語』 ペーター・ニクル ビネッテ・シュレーダー 2004.10 岩波書店

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

|

« 63冊目 『四畳半神話大系』 | トップページ | 本の本 »

小説・物語」カテゴリの記事

文庫」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 64冊目 『夜は短し歩けよ乙女』:

« 63冊目 『四畳半神話大系』 | トップページ | 本の本 »