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2009年8月15日 (土)

70冊目 『夜市』

夏といえば、子どもの時は今よりもっと毎日が輝いたものだったような気がするのは、自分が確実に年をとってきたからなのでしょうか。ともあれ、8月も早くも折り返し地点に辿り着き、夏らしいことを何もしていないので、せめて夏の読書記録だけでも書き記しておきたいと思います。

夏には夏の読書、というわけで新潮文庫、角川文庫、集英社文庫の夏の100冊フェアが毎年開催されていますが、今年もその中から未読のものを選んで何冊か読んでみました。今回紹介するのは、手にしたときの印象も涼しげな、

『夜市』 恒川光太郎 2008.5 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

夜市』 恒川光太郎 2008.5 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

という本です。恒川さんの本を一度読んでみたかったので、文庫化されていた本書を手にした次第です。

本書には、表題作の「夜市」と、「風の古道」という二つの作品が収録されています。

裕司はきりだした。

「夜市が開かれるそうなんだ」

「なあにそれ?」

「市場だよ。いろんなものを売っている。行けばわかる。行ってみない?」(P10)

大学生のいずみは、高校時代の同級生である裕司に「夜市」へ行こうと誘われます。あまり乗り気ではないいずみでしたが、裕司に連れられて、「夜市」が開かれるという海の見える岬へと向かうことになりました。

暗がりをしばらく歩くと、やがて前方に青白い光が見えてきた。木々がまばらになり、決して眩しくはない、仄かな青白い光に、闇が切り取られていった。(P14)

二人が入り込んだ「夜市」は、妖怪たちがあらゆるものを取り扱っている店が立ち並び、様々な世界からやってきた客との商売によって成り立っている、不思議な市場でした。怖くなり、帰りたいと言ったいずみに、裕司は幼い日に弟と一度「夜市」へ来たこと、そして自分は元の世界へ戻れたが、弟は消えてしまったことを話します。裕司は夜市のとある店で、弟と引き換えに才能を買ったというのです。そして、ある決意を胸に再びこの「夜市」を訪れたのでした。

「夜市」での異世界の住人との出会い、そして弟はどこへ行ってしまったのか。仄暗さと静けさが漂う文体の中に、ぐっと引き込まれていく作品でした。

続いての「風の古道」。

私が秘密の道の存在を友人に打ち明けたのは一二歳の夏休みだった。(P103)

幼い日、迷子になった私が一人で家まで辿りつけたのは、奇妙で特別な道を通ってきたからでした。ふと親友のカズキにその不思議な道のことを話してしまった私は、記憶を辿って、再びその道に入り込んでしまいます。記憶が間違いでなかったことに私は喜びますが、二人の少年の冒険は思いがけない方向に進んでいきます。

君たちは実のところちょっとまずいことになっているよ。

この道はね、大昔から日本にある特別な道なんだよ。今は両脇に家が建っているけどね、もともとは雑木林の中にあった神々の道なんだ。君らも道を歩いていて両側に立派な木が立っているのを見ただろう。

いいかい、道というものの中には……君たちは勘違いしているだろうけど、決して足を踏み入れてはいけないものもあるんだ。(P116)

踏み入れてはいけない道に入りこんでしまった二人は、道の茶店で出会ったレンという古道を旅している青年と共に道の出口を求めて、古道をさらに進んでいきます。しかし、そこで起こった思いがけない悲劇により、私はレンとともにある目的を達するため古道を旅することになります。その道中で語られた、古道で生まれたというレンの身の上話。レンはどこから来てどこへ向かおうとするのか。

現実とすぐ隣合わせにあるはずなのに私たちには見えない「夜市」と「古道」。まるで実際に作者がそこに行ってきたかのように描かれる二つの世界は、淋しくて不安定で、でも誰もが何故か懐かしくて惹かれてしまう、そんな不思議な世界でした。

読後、何とも言えない寂寥感を覚えましたが、物語の余韻が心地よさを伴う作品でした。ぜひ、恒川さんの他の作品も読んでみたいなと思います。

◎関連リンク◎

夜市(角川書店・角川グループ)

第12回日本ホラー小説大賞受賞作「夜市」恒川光太郎

コウタライン

・『雷の季節の終わりに』 恒川光太郎 2009.8 角川書店(角川ホラー文庫)

・『草祭』 恒川光太郎 2008.11 新潮社

・『秋の牢獄』 恒川光太郎 2007.11 角川書店

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