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2009年8月17日 (月)

72冊目 『プラネテス』

人間が未知なる世界を冒険しようとするのは、ヒトとしての「サガ」なのでしょうか。本来、人類が生存できないような環境であっても、これまで世界に名を知らしめてきた幾人もの偉大な先達によってその地は開拓され、地球上のあらゆる場所が踏破され、その存在を明らかにされてきました。

そして21世紀、人類の宇宙への眼差し。未知を行く冒険者としての先達の意思は、人類にとって今も決して失われていないと感じます。

今回私が手にしたのは、近未来の宇宙を舞台とした、

『プラネテス』 幸村誠 2001.1 講談社(モーニングKC)

プラネテス』 幸村誠 2001.1 講談社(モーニングKC)

という作品です。コミックスは全4巻で完結しています。

作品の舞台は2070年代の宇宙、「ハチマキ」の愛称を持つ星野八郎太は同僚のフィー、ユーリらとともに、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を回収する仕事をしています。

この時代、資源が枯渇してしまった地球に代わり、月の資源が利用されていて、また月で生まれ育つ者も少なからずいて、本格的な宇宙開拓時代が始まった頃のように思われます。この時代においては、宇宙は単に人類にとって夢や冒険の舞台だけでは決してなく、政治的・思想的な駆け引きの舞台となっている現実があり、そのような舞台背景を持って描かれるこの作品は、幸せな未来や進歩に沿った空想とは違う、ある種のリアルさを伴った、あり得る近い将来としての宇宙を読者に想起させるものとなっています。

「宇宙自然環境の保護」が過激化し、宇宙における人類の構築物に対して破壊活動を行うようになった『宇宙防衛戦線』。先進国が月軌道上に配備している航空宇宙兵器『軌道機雷』。木星開発のために計画が進行中の人類初の木星往還船の開発の裏側でも、それを阻止しようとするテロの動きがあったり、エンジン開発中に甚大な被害を伴う事故が月面で発生したりと、決して読者に明るいだけの宇宙開拓黎明期を見せてはくれません。

しかし、だからこそ人類は宇宙と今後どう関係を築いていくのか、宇宙はもはや地球の現実と切り離された理想郷ではなく、清濁を抱えた人間社会の延長線上にあるということを、まじめに考えるきっかけを与えてくれているように思います。

八郎太が木星往還船の船員になるために必死になる中で、一度は虚無に見入られそうになりながら、同僚であるタナベと共に生きていくことを決意するまでのパート。そして、終わりのないデブリ回収という仕事をしながら、その一方で宇宙が国家間の軍事的駆け引きの場として新たに汚されていくことに憤り、己の信念を貫くかで立ち往生するフィーの姿を描いたパート。その2つの大きなテーマが作品の骨格をなし、より物語に深みを与えています。

物語全体から受ける印象としてはユーモアが多分に交えられながら、しかしある種の問題提起としての今後の宇宙開発における人類的課題を描くことを怠らないことで、絶妙なバランスの作品となり、私にとって、考えさせられる点が多い作品でした。

夜空を見上げて素直にきれいだなぁと感じられるこの時代に、この作品の持つ意味はなかなか大きいのではないかと思います。『プラネテス』が映像化された作品について私は観ていないのですが、コミックス版と比べてストーリーが再構成されているようなので、ぜひ機会があれば観てみたいなと思います。

◎関連リンク◎

プラネテス(講談社コミックプラス)

PLANETES Web - プラネテス公式ホームページ

・『プラネテス Blu-ray Box 5.1ch Surround Edition』 2009.9 バンダイビジュアル

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