« 地下鉄烏丸線電車型ホッチキス | トップページ | 76冊目 『エア新書』 »

2009年9月20日 (日)

75冊目 『雷の季節の終わりに』

春夏秋冬、すなわち四季。日本列島には、その季節に応じた情景があり、その情景はそこに住む私たち人間の心を動かし、大きな影響を与えています。地球規模の環境の変化によって、当たり前だと思っていた日本における四季の移ろいも、今後大きく変わっていく可能性があると聞きます。

さて、そこで暮らしている文化が違えば、季節の感じ方もきっと違うことでしょう。もしも季節が他にもあったとしたら。今回私が手にしたのは、

『雷の季節の終わりに』 恒川光太郎 2009.8 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

雷の季節の終わりに』 恒川光太郎 2009.8 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

という本です。

穏には春夏秋冬の他にもう一つの神の季節があった。穏に住む者たちは、冬と春の間に位置する短いその季節のことを、神季、もしくは雷季と呼んで、特別に春や冬から分けていた。雷季、その名の通り雷の季節だ。冬が終わると、海の彼方から雷雲がやってくるのだ。雷雲は二週間ほど穏に留まり、無数の雷を降らせる。雷季の期間は、穏に住む人間はほとんど家から出ることはない。外では狂ったように風が吹き荒れ、日によっては朝から晩まで、雷鳴が止まない。(P7-8)

賢也が暮らしている土地の名は「穏(おん)」。穏は外の世界から少しずれた空間にあり、外の世界で暮らす人間たちにはその存在が知られていません。穏で暮らす人間たちの祖先は、数千年前に彼方の土地よりここにやってきたといいます。

賢也には姉がいましたが、三年前の雷季に忽然と姿を消してしまいました。そして賢也にはそれ以来何かが憑いていたのです。穏の呪い師が賢也に見たもの。それは「風わいわい」でした。

穏には「墓町」と呼ばれている、踏み込むと碌な目にあわない恐ろしい幽霊の町がありました。賢也はその「墓町」の門をあずかる闇番と交流を深めていくのですが、そこで恐ろしい真実を知ってしまい、ある出来事をきっかけに穏を出る覚悟を決めます。

門を出て少し進んでから振り返ったが、もう背後には暗い木々しか見えなかった。とても木々の向こうに町があるようには思えない。一度出たら、容易には戻れぬ幻術の効果かもしれない。(P118-119)

果たして、賢也は無事に外の世界に辿り着けるのか。

と、そこで視点が「茜」にガラッと切り替わり、読者としては時空間を飛ばされてしまった格好になります。「穏」という土地、独特の風習、そして賢也と茜。時間は進み、そして戻りながら、一つずつ謎が明らかになっていきます。

この物語で重要な役割を担っている「風わいわい」の存在。私が名乗っている「朔風」は、北風という意味で、もともと「風」が好きだったのですが、私自身、物語とはちょっと逸れたところで「風」というものへの関心を更に高められました。

この日本と「穏」とをつなぐ道が、どこかに確かにあるのではないか。そして私の知らない誰かが、今日もその道を行き交っている。

私は本当のところホラーは苦手なのですが、恒川さんの作品はホラーとファンタジーの要素を兼ね備えているので、そこに惹きつけられているのかもしれません。まだ二作品しか読んではいませんが、現代の日本と私たちがどこか懐かしく感じてしまう異界をつなぐ物語を両作品とも描いていて、自然にその世界に入り込んでいる自分がいました。読んでいて、あっ、この雰囲気は、以前読んだ恩田陸さんの『光の帝国 常野物語』に通じるものがあるなと感じました。

先日読んだ『夜市』も良かったですが、恒川さんの作品は本当に独特の静寂感に包まれていて、今後も読んでいきたい作家さんだなと思いました。

「お姉ちゃんはさあ、お姉ちゃんなの?」(P298)

◎関連リンク◎

雷の季節の終わりに(角川書店・角川グループ)

雷の季節の終わりに 恒川光太郎

コウタライン

・『草祭』 恒川光太郎 2008.11 新潮社

・『秋の牢獄』 恒川光太郎 2007.11 角川書店

2冊目 『風の名前』(2006年1月22日)

60冊目 『光の帝国 常野物語』(2008年5月31日)

70冊目 『夜市』(2009年8月15日)

|

« 地下鉄烏丸線電車型ホッチキス | トップページ | 76冊目 『エア新書』 »

小説・物語」カテゴリの記事

文庫」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 75冊目 『雷の季節の終わりに』:

« 地下鉄烏丸線電車型ホッチキス | トップページ | 76冊目 『エア新書』 »