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2009年10月 4日 (日)

77冊目 『ベルカ、吠えないのか?』

年を重ねるほど、時間が経つのが早く感じられる。

その理由の一つとして、驚いたり感動したりすることが少なくなっていくから、ということが挙げられているそうです。いろいろな経験をして、もはや驚かない、だから過ぎていく毎日に印象が残らず、あっという間に時間が経ったなぁと感じてしまうんですね。

その意味において、昨年ある一冊の本とのまさに驚くべき出会いがあり、今もその時の読書が強く心に残っています。秋の再読本第三弾として今回紹介するのは、

『ベルカ、吠えないのか?』 古川日出男 2008.5 文藝春秋(文春文庫)

ベルカ、吠えないのか?』 古川日出男 2008.5 文藝春秋(文春文庫)

という本です。装丁からして、一頭の黒い犬が力強く吠えていて、読者の心に強い印象が残ります。

名前のない島が、ゼロの時間の内側に漂いはじめる。そこは世界の終わる場所のようであり、また、世界がこれから生まれ落ちようとしている原初の場所のようでもある。激しい雨がしばしば降る。烈風はやまず、立ちこめる霧が消える気配はない。しかし、雑草は黄色い花を咲かせる。日本軍はイヌ用の糧食は、何週間かぶん、残した。豪雨のときは塹壕にこもり、イヌたちはその白い島にいる。霧の島にいる。(P24-25)

第二次世界大戦。かつては米国領キスカ島であり、日本軍によって鳴神島と和名が与えられ、そして今、名前を持たない島。そこにいる忘れられた四頭のイヌ。

北、正勇、勝、エクスプロージョン。

この四頭の軍用犬から物語、否、歴史が語られ始めます。誰によって?むろんイヌたちによって。

イヌたちは、人間によって翻弄され続けます。その命が果てるまで、否、その子孫たちの命が連綿と続いていく限り。

朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、東西冷戦。イヌたちは翻弄されながら、しかしその命をつなぎながら、歴史を紡ぎ続けていきます。時に生まれ落ちた世界と別れ、しかし地球上にいる限り、時間も場所も越えてまた出会うことになるイヌたち、否、もはや地球を飛び出したイヌもいる。

スプートニク二号には、気密室が設けられて、そこに生物が乗り組んだ。宇宙飛行を体験する地球ではじめての生命体。人間ではなかった。搭乗させられていたのは、一頭の雌犬だった。気密室にはのぞき窓が開けられていた。そして雌犬は、地球を見下ろしていた。(P131-132)

20世紀、戦争の世紀を疾走し続けたイヌたちの物語。

正直、初めて読んだ時、ここまでの読後感があることを予想できませんでした。今までに読んだことのないくらいエネルギーが充満し、危うくて、独特の語り口によってテンポよく走り続ける文体。そのすべてにやられ、圧倒されました。

昨年の初読の興奮から時間が経ち、今回再読しましたが、やはり相変わらずやられてしまいました。本当に面白かったです。

作者自身、「想像力の圧縮された爆弾」と本書を語っているだけに、読み手を選ぶ作品かもしれません。ダメならしょうがない、でもこの作品が強く心に残る読み手はまだまだたくさんいるはずです。未読の方がいらっしゃれば、是非この秋読んでみてください。お勧めの本です。

本書において、イヌたちは地球上のあらゆる地点を縦横無尽に駆け抜けていくのですが、「bookmarks=本の栞」のほんのしおりさんが、Google Mapsを使ってイヌたちの動き、系譜を追われているのがとても面白いアイデアだなと思いました。いやはや素晴らしいです。読書も本を読んで終わりではなく、そこから出発して、さらにそこにいろいろなものが付随したり、発展させていけるのが、本当の醍醐味といえますよね。

本書を読みながら、何度も頭の中に蘇ってきたあのテーマ曲。それはドラマ「鹿男あをによし」のエンディング曲として話題になったあの曲でした。(本書とは関係はありません、あしからず。)

鹿たちの疾走ではなく、こちらはイヌたちの疾走でしたが、あの力強さとリズミカルなテンポを聞くと、本書のほうを思い出しそうです。

まだ未読の作品がたくさんあるので、今後も古川さんの著作に注目していきたいと思います。

イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?

うぉん。

◎関連リンク◎

ベルカ、吠えないのか?(文藝春秋)

二十世紀をまるごと書いた 古川日出男 自著を語る(文藝春秋)

作家の読書道:第46回 古川日出男(WEB本の雑誌)

「メッタ斬り!版 第133回 芥川賞、直木賞選考会」文学賞メッタ斬り!(Excite)

『ベルカ、吠えないのか?』(八方美人な書評ページ)

・『聖家族』 古川日出男 2008.9 集英社

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古川 日出男 『ベルカ、吠えないのか?』(bookmarks=本の栞)

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