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2009年10月21日 (水)

81冊目 『花散らしの雨』

今年、世界中で猛威をふるっている「新型インフルエンザ」。私の勤め先でもとうとう社員の感染者が出たようで、一気に拡がってしまうことのないよう、こまめな消毒とマスク着用が呼びかけられています。

思い返せば、自身にとっては最後に季節性インフルエンザにかかったのは高校1年生の冬でした。40℃を超える高熱にうなされましたが、不幸中の幸いというべきか、休んでいる時に長野冬季オリンピックの開会式を見ることが出来て嬉しかったことを思い出します。

さて、今回私が紹介するのは、先日紹介した『八朔の雪』に続く、みをつくし料理帖シリーズ待望の第二作、

『花散らしの雨』 髙田郁 2009.10 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

花散らしの雨』 髙田郁 2009.10 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

です。今月15日の発売日、仕事帰りに本屋に立ち寄り、なんとか見つけることが出来た時、ほっとしました。驚いたのは発売日にして第二刷発行となっていたこと。『八朔の雪』が巷で評判になっているだけに、発売前にして増刷を決定していたのでしょうか。

早く読みたい、でも急いたらもったいない。

というわけで、いつものスタイルで通勤中にちょっとずづ読みました。案の定、仕事前にうるっときてしまいましたが。

前作では、澪の豊かな発想と周りの人々の協力によって、少しずつ「つる家」に澪の料理を楽しみにやってくるお客さんが増えてきたところで、付け火によって店が焼失してしまい、そこからもう一度「つる家」を再建しようというところで幕を下ろしましたが、今作では、新たな「つる家」を武家屋敷が広がる元飯田町に再建し、澪や種市らが店を切り盛りしているところから話が始まります。

目次を見ると、

俎橋から――ほろにが蕗ご飯

花散らしの雨――こぼれ梅

一粒符――なめらか葛饅頭

銀菊――忍び瓜

巻末付録 澪の料理帖

となっています。

澪を取り巻く、各々に個性があり、そして背負っているものがある登場人物たち。前作から引き続き登場する面々に加えて、今作でも印象の強い、そして今後話の中で活躍していくであろう人物が何人か登場します。

その中でも、苦労の絶えない澪と重なるところがある「ふき」という少女が登場するのが、今作の最初の物語である「俎橋から」です。

江戸の料理番付で大関の地位にありながら、幾度とその暗部の一端を覗かせてきた「登龍楼」。これまで様々な仕打ちに屈することなく料理を続けてきた澪でしたが、新たに「つる家」で下足番として働くことになった「ふき」との関わりによって、とうとう直接対決に臨むことになります。

誰しも簡単には口に出来ない色々な事情を抱えている、そしてそれを悪用しようとする輩がいる。「ふき」の姿に自身の苦労した少女時代を見た澪は、裏で不審な行動をしている「ふき」を責めようとはしませんでした。澪の「ふき」への思いやりは、裏で糸を操っている者への怒りへと転じます。

これまでやれ孫だ、子どもだ言われていた澪でしたが、「ふき」から「澪姉さん」と呼ばれて、くすぐったいような笑顔を見せる場面では、こちらも澪の表情が想像できて、思わず微笑んでしまいました。

共に働く仲間、仕入先、お客さん。澪の周りにはどんどん新たな素敵な出会いが広がっていきます。個人的には「りう」という、一時「つる家」で手伝いをすることになったおばあさんが強く印象に残りました。老獪ともいえる振る舞いと的を射た言葉の数々に、また登場してほしいなと思いました。

そんな日々の中で、大切な仲間に病魔が忍び寄ります。現実の世界で拡がるインフルエンザ、作中では麻疹が命を脅かそうと猛威をふるいますが、澪をはじめとする登場人物たちの思いやり、揺るぐことのない深い愛情によって、そんな危機的な状況を乗り越えようと、病と必死になって対峙する場面が描かれます。

危機を乗り越える度に、その絆はより強固なものになっていき、いつしか皆が澪にとって家族のような存在になっていきます。前作で謎を多く残した小松原でしたが、今作ではなかなか活躍する機会がなかったようです。しかしながら澪にとってその存在は日増しに大きくなっているようで、この謎の侍についてあまり多くを語らずなところが、今後のこのシリーズの布石となるのかなと期待してしまいました。

相変わらず澪の作る料理はどれもが美味しそうで、一体なぜでしょうか。出来上がったものを見るだけでなく、作る過程から追っているから、より現実的に想像出来てしまって、読者としてはやられてしまうのかもしれないですね。本当にこのシリーズ、今後の刊行が楽しみです。

文庫本の帯に「文字が大きくなりました」と書かれていて、確かにやや大きめになっているので、どの世代でも更に読みやすくなったと思います。本作のはじめに、これまでに登場した「つる家」をはじめとする店や寺社の位置関係が分かる地図が載っていて、思わず見入ってしまいました。

最後に、これまでの二作を通じての登場人物を整理して、次回作を楽しみに待ちたいと思います。

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:幼くして水害により両親を失い、かつての奉公先の「天満一兆庵」を再建することを目標として、「つる家」の調理場を切り盛りしている本作品の主人公。小松原のことが気になっている。子どもの頃、易者・水原東西に、「雲外蒼天」の相と言われる。齢一九。
(澪、お澪坊、下がり眉、澪さん、澪姉さん)

「この道で花を咲かせることが、私があの水害で親の命と引き換えに生き残った理由のように思えてならんのだす」(八:P129)

種市:今は亡き娘の名を冠した「つる家」の店主として、澪を実の娘のように温かく見守る存在。腰を痛めて蕎麦を打てなくなってしまい、「つる家」を澪に託した。齢六十五。
(旦那さん)

「人間、生きてりゃ泣きたくなるくらいのことはあらぁな。泣いて良い、泣いて良いのさ」(八:P54)

:大坂で名の知れた料理屋「天満一兆庵」の女将だったが、店が焼失してしまい、「天満一兆庵」を再建するために、行方不明になっている若旦那で息子の佐兵衛を探している。澪にとっては幼いころの命の恩人であり、母ともいえる存在。心労で体を弱くしてしまっているが、その器量の大きさや機転のきかせ方、一本筋の通った言動は、さすがは元女将と周囲に言わしめるもの。齢四十八。
(ご寮さん)

「せや。料理は料理人の器量次第や。」(八:P223)

小松原:「つる家」の常連の侍だったが、店が元飯田町に移ってからなかなか姿を見せなくなった。澪の料理に対して、これまで鋭い指摘をしてきた。どこに仕えているのかなど謎が多い。齢三十前後。
(小松原さま)

「江戸っ子は諦めの良さが身上だが、それを見習うなよ。あれこれと考え出せば、道は枝分かれする一方だ。良いか、道はひとつきり。それを忘れるな」(八:P147)

永田源斉:若き町医者。御典医・永田陶斉の次男だが、「父は父、私は私」と、一介の町医者として澪たちに接し、人々からの信頼も厚い。澪の料理や用いる食材について、医師としての立場からその効用について説き、またその発言が澪のひらめきにつながることも多い。齢二十半ば。
(源斉先生)

「口から摂るものだけが、人の身体を作るのです。澪さんがついているのだ、ご寮さんはきっとお元気になられますよ」(八:P125)

おりょう:澪と芳が暮らす長屋の、向かいに暮らすおかみさん。「つる家」が繁盛しだしてから、店の接客を手伝うようになった。齢四十八。

「あたしゃ知らなかったよ。本当に美味しいものを食べる時は、無口になるものなんだね」(八:P200)

伊佐三:おりょうの亭主にして、腕の良い大工。初の棟梁仕事は両替商「伊勢屋」の普請。

太一:おりょうと伊佐三の息子。火事で身寄りが無くなり、おりょうたち夫婦に引き取られた。

ふき:「つる家」の下足番。両親を亡くし、幼い弟は「登龍楼」に置かれている。澪が「登龍楼」に乗り込み、すべてが明るみに出たことで、辛い隠密の役目から抜け出すことが出来た。澪を姉のように慕っている。齢一三。
(ふき坊、ふきちゃん)

:ふきの弟で、「登龍楼」で奉公している。齢六、七。
(健坊)

清右衛門:有名な戯作者。口は悪いが、裏表のないその言動に澪の気持ちが救われる場面も。「登龍楼」との一件以来、すっかり「つる家」の常連となった。りう曰く、「あのひとは今にもっと化けますよ」。

孝介:口入れ屋の店主。「つる家」にふきを勧めた。

りう:孝介の母。孝介がふきの一件の穴埋めとして、人手の足りない「つる家」に寄こした老婆。腰はひどく曲がっていて、歯も上下とも無いが、長いこと大手門の下馬先の茶屋に勤めていたため、その働きぶりは見事なものだった。齢七十五。
(りうさん、りうばあちゃん)

「食べる、というのは本来は快いものなんですよ。快いから楽しい、だからこそ、食べて美味しいと思うし、身にも付くんです。」(花:P198)

留吉:流山の酒屋「相模屋」の奉公人。店主・紋次郎の苦心の品、「白味醂」を売り込みに江戸に出てきた。

美緒:両替商「伊勢屋」のひとり娘。育ちの良い美しい娘で、医師の源斉を好いており、そのために縁談を壊してしまったほど。もう一人の「みお」。源斉が足繁く「つる家」に通っているため、澪に嫉妬している。

采女宗馬:日本橋「登龍楼」の店主。元は煮売り屋だったが、今では料理番付の東方大関に選ばれるほどの、江戸一番と言われる料理屋にまでのし上がった。清右衛門曰く、「生半可な悪ではない、もっと大物」で、興味は権力と金。

あさひ太夫:吉原一の花魁と言われる、翁屋の太夫。廓ぐるみで作り上げた幻の花魁とも言わてれるが…。

又次:翁屋で料理番をしており、或るひとのために、澪に料理を頼みにやってくる。齢三十半ば。

伝右衛門:吉原の大見世、翁屋の楼主。源斉先生の患者でもある。

野江:唐高麗物屋「淡路屋」のこいさん(末娘)で、澪の幼馴染み。易者・水原東西に、太閤はんにも勝る「旭日昇天」の相で、ここまでの強運の相を見るのは初めてやと言わしめた。水害により「淡路屋」は流され、その消息は分からなくなってしまった。

「澪ちゃんは私の大事な友だちやんか。親の商いは関係あらへん」(八:P92)

伊助:澪の父で、漆師。澪が八つの時に水害により命を落とした。優れた漆塗りの技を持っており、伊助の作った箸は「天満一兆庵」でも出されていた。

わか:澪の母。伊助とともに水害により命を落とした。

つる:種市の娘。一七の時に亡くなった。

嘉兵衛:「天満一兆庵」主人。度重なる心労により、澪に「天満一兆庵」の再建を託し、息を引き取った。

「才のない者には、恥かかんよう盛大に手ぇ貸したり。けど、才のある者には手ぇ貸さんと、盛大に恥かかしたり」(八:P12)

佐兵衛:「天満一兆庵」江戸店の主を任されていた若旦那。吉原通いで莫大な借財を負い、江戸店を手放して消息を絶った。

追記1:2010年1月24日(日)

「ブックサービス」によると、来月2月13日に、みをつくし料理帖シリーズ待望の三作目が発売予定のようです。あんまり急いてはいけませんが、早く続編が読みたいですね~♪

2010年2月期文庫発売予定情報(ブックサービス)

追記2:2010年2月14日(日)

どうやら発売日が一ヶ月延びたようで、「オンライン書店 本やタウン」によると、みをつくし料理帖シリーズ待望の第3弾『想い雲 みをつくし料理帖』は、3月13日に発売予定のようです。

今日の朝日新聞・読書面の「売れてる本」のコーナーで、『八朔の雪』が紹介されていました。記事によると、現在、『八朔の雪』が19刷・18万部、『花散らしの雨』が13刷・13万5千部に達しているそうです。個人的には、もっと火がついてもいいんじゃないかと思うくらいの本当に素敵な作品なので、今後もファンの人が増えていったらいいなぁと思っています。

文庫近刊情報 最新 か行(オンライン書店 本やタウン)

◎関連リンク◎

花散らしの雨 みをつくし料理帖(角川春樹事務所)

79冊目 『八朔の雪』(2009年10月11日)

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