« 84冊目 『チャリオ』 | トップページ | 86冊目 『闇の守り人』 »

2009年11月28日 (土)

85冊目 『精霊の守り人』

あの時から1年が過ぎました。あの時とは、この物語を初めて読んだ時。いつか感想を書こうと思っている間に、待望の文庫版の続編も刊行され、ようやくこの秋、このシリーズをもう一度読みなおそうと思い、これまで少しずつ読み進めてきました。今回私が紹介するのは、

『精霊の守り人』 上橋菜穂子 2007.4 新潮社(新潮文庫)

精霊の守り人』 上橋菜穂子 2007.4 新潮社(新潮文庫)

という本です。本書は、上橋さんの人気作品である『守り人・旅人シリーズ』の幕開けとなった、記念すべき第一作です。

昨年、『獣の奏者』を読んで、そのあまりの面白さに感動し、これは他の作品も読まねばと、次々と上橋さんの作品を読みました。先に感想を言ってしまうと、このシリーズも期待を裏切らない上質な面白さと感動を与えてくれた作品でした。

目次を紹介すると、

序章 皇子救出

第一章 皇子の身体に宿ったもの

第二章 卵を食らう魔物

第三章 孵化

終章 雨の中で

となっています。

本書の、そしてこの広大なシリーズの主人公、バルサの物語はここから語られ始めました。

バルサが鳥影橋を渡っていたとき、皇族の行列が、ちょうど一本上流の、山影橋にさしかかっていたことが、バルサの運命を変えた。(P14)

バルサは今年三十。さして大柄ではないが、筋肉のひきしまった柔軟な身体つきをしている。長い脂っけのない黒髪をうなじでたばね、化粧ひとつしていない顔は日に焼けて、すでに小じわが見える。

しかし、バルサをひと目見た人は、まず、その目にひきつけられるだろう。その黒い瞳には驚くほど強い精気があった。がっしりとした顎とその目を見れば、バルサが容易に手玉にはとれぬ女であることがわかるはずだ。――そして、武術の心得のある者が見れば、その手強さにも気づくだろう。(P14)

「短槍使いのバルサ」の名で知られる女用心棒のバルサは、たまたま命を救った少年が新ヨゴ皇国の第二皇子であったことで、その母親である二ノ妃から助けを求められます。それは、命を狙われている第二皇子のチャグムを連れて逃げ、生きのびさせてほしいというものでした。

断ればその場で殺されるかもしれないこの時点で、バルサに残された選択肢は、それを受け入れ、チャグムを連れて逃げることしかありませんでした。こうして、バルサとチャグムの逃亡が始まります。

皇族としてこれまでずっと暮らしてきた宮を脱出し、生きるために逃げることを余儀なくされたチャグム。バルサとの逃走は知らないこと、驚きの連続でした。

「お、ぶさる、とは、どういうことか?」

「おぶさるっていうのは、背負われることだよ。平民の子は赤ん坊の頃から、おっかさんが仕事をしているあいだ、おっかさんにおぶわれているものなのさ。……知らないことは、お聞き。知らなくてあたりまえなんだから、気にすることはない。ゆっくり慣れていけばいいさ」(P68-69)

チャグムが命を狙われる理由。それは、チャグムの身に「恐ろしい何か」が宿ってしまったからでした。そのことが表沙汰になれば、国を統治する帝の威信にも関わってくるという理由で、父である帝から命を狙われることになってしまったのです。

しかし、チャグムの身に起きたことは宮中だけの事件にとどまらず、この国に暮らす人々がこれから生きていくことが出来るかという、国の存亡にも関わってくるような、もっと重大な出来事であり、チャグムの身に宿ったものは不思議な力を秘めていたのです。

チャグムを連れて逃走したバルサは、幼馴染みの薬草師・タンダ、当代最高の呪術師と言われるトロガイと合流し、チャグムの身に宿ったものの正体、そして秘密が少しずつ明らかになっていきます。

一方その頃、新ヨゴ皇国の都・光扇京で星読博士たちが住まう星ノ宮でも、若き星読博士シュガが、今回のチャグムに起こった騒動の真実に迫ろうとしていました。星を読み、天ノ神を祭る星読博士、その中で、「星ノ宮一の英才」とささやかれていたシュガは、思いがけない建国以来の秘密を知ることとなります。

チャグムを守ろうとする者たち、チャグムを捕えようとする者たち。そしてもう一つ、チャグムに宿ったものを狙う不気味な魔物の影。

終盤にかけて散りばめられていた伏線が怒涛のように混じり合い、一本の線となっていきます。果たしてバルサ達はチャグムの命を救い、この国の未来を左右する大事なあるものを守ることができるのか。是非未読の方は、自分の目でこの物語を味わってほしいなと思います。

上橋さんの作品の素敵なところは、登場人物の感情がそれはそれは豊かなことです。喜びや悲しみ、苦しみ、そういった感情が時に切なく、痛いくらいに伝わってきて、物語の枠を超えたリアルさを伴って、読み手の心にその世界がドワーっと迫ってくるのです。

そして登場人物の個性の強さもさることながら、その世界観や歴史についても最後まで破綻することなく、どこかにあるかもしれないもう一つの世界へと読者を誘ってくれます。この点については、さすが文化人類学者としても活躍されているだけに、上橋さんが築かれた世界は厚みが半端じゃないなと思わせられます。しかも、シリーズが続いたことによって、その世界が更に広がりを見せることになるとは、本当に恐れ入ります。

壮大な物語の幕開けにふさわしい、本当に素晴らしい作品でした。

そして本書の終わり、バルサは故郷であり、自身の運命を決定的に変えてしまった土地でもある、新ヨゴ皇国の北の国、カンバルへと向かいます。今は亡き、養父ジグロへの思いを胸にして…。

バルサの長い旅は、これからも続いていきます。

◎関連リンク◎

上橋菜穂子『精霊の守り人』(新潮社)

守り人&旅人 スペシャルページ(偕成社)

精霊の守り人

作家の読書道 第95回:上橋菜穂子さん(WEB本の雑誌)

|

« 84冊目 『チャリオ』 | トップページ | 86冊目 『闇の守り人』 »

小説・物語」カテゴリの記事

文庫」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 85冊目 『精霊の守り人』:

« 84冊目 『チャリオ』 | トップページ | 86冊目 『闇の守り人』 »