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2009年11月30日 (月)

86冊目 『闇の守り人』

すぐそこに、今年も師走がやってきました。どうしても何かと急いてしまう日常にあって、ふと心を立ち止まらせることができる読書の時間をとれるよう、心がけたいなと思います。

さて、先日、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を紹介しましたが、未読の方は本当にお勧めなので是非読んでほしいなと思います。もう読まれた方は、今回も一緒にバルサの旅を追っていくことにしましょう。今回私が紹介するのは、

『闇の守り人』 上橋菜穂子 2007.7 新潮社(新潮文庫)

闇の守り人』 上橋菜穂子 2007.7 新潮社(新潮文庫)

という本です。『守り人・旅人シリーズ』の第二作目の作品です。

目次を紹介すると、

序章 闇の中へ

第一章 闇の底に眠っていたもの

第二章 動きだした闇

第三章 <山の王>の民

第四章 <ルイシャ贈りの儀式>

終章 闇の彼方

となっています。

『精霊の守り人』はバルサの長い旅路の序章、チャグムとの出会い、そして私たち読み手との出会いの物語でもありました。前作で少しだけ語られたバルサの壮絶な過去の一端。

用心棒として、否、家族のように思えるようになったチャグムを守り抜いたバルサは、生まれ故郷であるカンバル王国へと向かっていました。故郷を訪れるということ、それはバルサにとって、大変な覚悟を伴うものであったに違いありません。

バルサは、これまでずっと、故郷を忘れようとしてきた。バルサにとって、故郷は、ふれれば痛む古傷のようなものだったからだ。

身体についた傷は、時が経てば癒える。だが、心の底についた傷は、忘れようとすればするほど、深くなっていくものだ。それを癒す方法はただひとつ。――きちんと、その傷を見つめるしかない。(P19)

幼いバルサは、当時何も分からないまま、家族と引き離され、その後養父となる、父・カルナの親友であったジグロと共に、カンバル王国を脱出します。王国の暗い陰謀によって命の危険に晒されていたことを知る由もなかったバルサ。苛烈な運命の歯車はこの時動き出したまま、今もバルサの心に行き場のない怒りと苦しみを残し続けていたのです。

25年ぶりに戻ってきた故郷、カンバル王国では、真実は闇の中に葬られ、全く違う話が事実として人々に記憶されているようでした。友との約束を守りバルサを救ったジグロは、国を裏切った悪人に仕立て上げられ、かつては百年にひとりといわれるほどの天才的な短槍使いとしてその名を轟かせ、氏族の誇りとされた男であったはずが、今では氏族の恥として蔑まれ、氏族の名を貶めた者として恨みの対象にもなっていたのです。

国の状態はというと、もともと貧しい王国であるカンバルにとって、とてつもない富である宝石「ルイシャ」を得る機会である「ルイシャ贈りの儀式」も、もう何十年も訪れない状態が続いていました。

捻じ曲げられた真実と、訪れることのない「ルイシャ贈りの儀式」。そこへ25年ぶりに故郷の地を踏んだバルサの存在が、この国の人々を、そして過去と表裏一体である未来を動かしていくことになります。

いくらあらすじを書いたところで、この作品のすごさを百分の一も伝えられないであろうことがもどかしいですが、私が伝えたいのは、この作品を未読の人は本当に羨ましいなという素直な気持ちです。

もう一度白紙の心でこの物語と出会いたい。

物語はクライマックスに向けて、読み手の感情を揺さぶり続けます。自らの心の傷口から目を逸らすことなく、辛くても見つめようとしたバルサだったからこそ、その瞬間は訪れたのでしょう。

弔いの槍舞いの衝撃。

本当にバルサが必要とした人と、お互いが本心でぶつかり合った場面では、もはや涙が流れるのを止めることは出来ませんでした。作品としてはファンタジーの王道と言われるのかもしれませんが、決してこの物語は子どもだけのものではありません。むしろ、子どもの頃には分からなかったであろう、人が「生きて」いくうえで呑み込まねばならない複雑な気持ちや、受け入れるしかない不本意な運命といったものが、大人の読み手であるからこそ分かる部分もあると感じる作品です。

上橋さんは、あとがきでこう綴られています。

偕成社から出版されている軽装版の後書きにも書きましたが、『精霊の守り人』は、子どもたちに人気がある一方で、『闇の守り人』は大人から支持されているようです。これは、多分、『闇の守り人』は、バルサという大人が、過去と向きあう物語だからなのでしょう。

バルサは、なんらかの事件の渦中にある人を守る用心棒なので、もともとは事件の当事者ではありません。ですから、たとえ主人公として立っていても、どこか「傍らに居る」感じのする人です。

しかし、「守り人シリーズ」全十巻の中で、本書は唯一、バルサ自身が事件の核となる部分があり、それゆえ、彼女の葛藤が物語の中核を貫くことになりました。大人が『闇の守り人』を支持してくださる理由は、きっと、そこにあるのだろうと感じています。(P378-379)

昨年、その時の感想を記事には出来ませんでしたが、自分の中では2008年に読んだ作品の中で、一番心を動かされた、感動した作品です。さらにつけ加えると、感動だけにとどまらず、物語としての面白さもあり、一度読み始めると、どうしても先が読みたくなり、散りばめられた伏線と謎の真実を知りたくなり、思わず徹夜してしまったほどでした。

前作の『精霊の守り人』と合わせて、本当にお勧めの作品です。カンバルで古い傷と向き合ったバルサの旅は、ここから更に続いていきます。

「やってくれるだろう。わしはな、運命がバルサをこの地に呼んだのだと思っているんだ。バルサには、運命なんて言葉で、かるがるしくかたづけるな、とどなられたがな。だが、この世には、こんなことが――ふしぎな糸で、たぐりよせられるようなことが、ときおり起こるものだ。そうじゃないかね?」(P298)

◎関連リンク◎

上橋菜穂子『闇の守り人』(新潮社)

守り人&旅人 スペシャルページ(偕成社)

85冊目 『精霊の守り人』(2009年11月28日)

はっちの太鼓本 乱打太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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