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2009年11月23日 (月)

84冊目 『チャリオ』

自転車に乗る機会が減りました。一応駐輪場にあることはあるのですが、パンクしてしまったままずっと置きっぱなしです。自転車部品の組み立て工場で2年間働いていたにも関わらず…。なので移動する際は徒歩というのにもすっかり慣れてしまいました。

学生時代は自転車には本当にお世話になりました。そして、幾度となく転倒し、ついには自分が前方に飛んで、ズザ~っと着地して後ろを振り返ると、自転車がひっくり返った拍子に180度回転し、左右のハンドルとサドルの三点できれいに立っているという奇跡?を目の当たりにしたことが今となってはいい思い出です。

というわけで、今回私が紹介するのは、

『チャリオ』 雀野日名子 2009.9 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

チャリオ』 雀野日名子 2009.9 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

という本です。雀野日名子さんは『トンコ』が話題になりましたが、先にこちらを読んでみることにしました。読者には嬉しい、文庫書き下ろし作品です。

目次を見ると、

一 泥喰川

二 駐輪場

三 ルームミラー

四 草むら

五 決 壊

となっています。自転車の物語と言えば、竹内真さんの『自転車少年記』が思い出されますが(未読です)、何故か私は最近手にすることが多い角川ホラー文庫の、このカバー絵とタイトルに惹かれて読み始めてしまいました。出だしのタイトルが「泥喰川(どろばみがわ)」という時点で、もう何か嫌な予感しかしないですね。

タイトルになっている「チャリオ」とは、販売時に自転車につけられていた名前でした。

白い梱包材のあいだから現れたのは、スカイブルーのフレームに稲妻のエンブレムがあしらわれた十八段変速――全国千台限定発売の「チャリオ」だった。(P29)

最初に登場するのは、塾で講師をしている「光一」。光一は小学生として、ほんの一時期を過ごした北陸の田舎町に講師として赴任してきた青年で、なぜよりによってこの町に配属されたのかと、陰鬱な思いを持って日々を過ごしていました。小学生だった当時、引っ越してきたものの、町にも町の住人にも馴染むことが出来ず、暗い思いしか残っていなかったのです。

そんな光一に不思議な出来事が起こります。自分のアパートの玄関前に残されていた泥水とタイヤ痕。最初は隣人の仕業かと疑いますが、そうではないと分かり、しかし更なる自転車による自分へのいたずらと思われる出来事が起こります。

その時、光一は記憶の底にあったあることを思い出すのです。タキだったかアキだったかフルネームは思い出せないものの、自分のことを「コウにいちゃん」と親しく呼びかけては絡みついてきていた少年のことを。そしてあの事件を。

――小4男児行方不明。自転車だけが発見される。

あの日の新聞記事が生々しく浮かびあがる。(P22)

物語は章ごとにある登場人物の視点に特化して語られ、その視点が交差しながら、少しずつ「チャリオ」を接点としたある事件の全容が明らかにされていきます。

光一が少年に対して持っていた歪んだ感情。そして行方不明になった少年の家族が抱えていたそれぞれの複雑な思い。

読み進めていくうちに、誰かの視点というのは、ある一側面しか見えていないのだな、そして本当のところは端から見るのとはやはり微妙に、時には全く違うのだなという思いが心の中に満ちてきます。昔、浜崎あゆみさんが歌っていた「appears」という歌の歌詞を私は思い出しました。

果たしてバラバラになってしまった家族の心と、光一、そして少年の思いはどこへ向かって自転車のように進んでいくのか。私は最後の声にならない場面で、少し救われる気がしたのと同時に、家族というものは時に何かを超越して結びつけられるものなのかもしれないなという気持ちにさせられました。

少年は「チャリオ」に果たして何を語りかけ、何を願ったのか。最後の場面を見るに、これは単純な恨みや復讐だけの物語ではないなと思いました。少年の心を宿した自転車を接点とする、家族の崩壊と再生の物語とも読めるかもしれません。少年の心のどこかに、仲の良い幸せな家族の風景が願いとしてあったのではないか、私はそう感じました。

最後の再会がこの家族にとって、瞬間的なものだったのか、リスタートになるのかは読み手の想像に任されているのかもしれません。私は、この家族ならもう一度やり直せるのではないかと信じたくなりました。

それにしても、著者が作品の中で自転車の動きを独特の言い回しで表現されていたのには、驚かされました。なんだかこればかりが強く印象に残ってしまいました。

べぉん、ぎしし、ずり、ぎぎ、がりり、ぎゅり。

◎関連リンク◎

チャリオ 雀野日名子(web KADOKAWA)

・『トンコ』 雀野日名子 2008.10 角川グループパブリッシング(角川ホラー文庫)

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