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2009年12月26日 (土)

90冊目 『神の守り人 下 帰還編』

鬼に笑われながら、来年のことを考えている今日この頃。一年の終わりにいろいろと整理をしていると、もっとこうしていれば良かったと反省しきりですが、それはまた来年に生かすとして、残された2009年をしっかりと締めくくっていきたいと思います。

それでは更に引き続き、今回私が紹介するのは、『守り人・旅人シリーズ』の第六弾である、

『神の守り人 下 帰還編』 上橋菜穂子 2009.8 新潮社(新潮文庫)

神の守り人 下 帰還編』 上橋菜穂子 2009.8 新潮社(新潮文庫)

という作品です。

目次を紹介すると、

序章 王城の裏庭で

第一章 狼殺し

第二章 罠

第三章 サーダ・タルハマヤ〈神と一つになりし者〉

終章 サラユの咲く野辺で

となっています。

バルサが救ったタルの民の少女アスラは、とてつもない力をその身に宿していました。それは、ロタ王国が建国されるよりも前、太古の昔に栄えていたロタルバルを支配していた畏ろしき神「タルハマヤ」の力でした。

タルの民、ロタ王家、そしてロタ王家に仕えるカシャル(猟犬)に代々語り継がれてきた、ロタ王国の建国に関わる秘密。言い伝えを頑なに守ろうとするもの、時代を変える力を得ようとするもの、そしてまだ幼さの残る少女を命をかけて守ろうとするもの。それぞれの思惑が交差しながら、確実に、その時が、その場所が、すべての者たちを引き寄せていきます。

アスラが宿している神の力を国のために、民族のために利用しようとする者たちも、それを阻止しようとする者たちも、結局はアスラを「大きな物語」の駒のように捕えています。しかし、バルサは違いました。バルサにとってアスラは、ただただ自身の人生を幸せに、穏やかに生きてほしいと願う一人の少女なのであり、大きな物語に巻き込まれていくことがどうしようもなく哀しかったのです。

「わたしは、大きな遊戯盤なんか、どうでもいい。神も、王家も、どうでもいい」

目をひらき、バルサは、暖炉の明かりで揺れる椅子の影を見ながら、いった。

「ただ、どうしてもゆるせないのは――シハナや、あの子の母親までもが、寄ってたかって、あの子に、人殺しをしろと、そそのかしていることなんだ」

声が、低く、かすれた。

「だれかが、伝えなければ……あの子に、人を殺すことのおぞましさを……」

なにもいえずにいるタンダの腕を、バルサはにぎった。

「いつになっても、穏やかな日々に安らぐことのできない闇が、その先には待っているんだと……」(P218)

物語の、そしてアスラの結末がどうなったのかは、みなさんの目で確かめていただきたいと思います。バルサのアスラへの溢れる思いは決して無駄にはならなかったのだと気づかされます。最後の最後に浮かんでくる顔、声、思い。人はそれによって生きも死にもするのかもしれません。

バルサとチャグム、交わりながら、離れながら、語られ、紡がれる物語。思えば、いくつかの国を旅した彼らのまわりには、あまりにも不思議な出来事が次々と起こっています。それはそれぞれの国で、何十年、何百年単位で語り継がれてきた「もうひとつの世界」と深く関わっているものでした。

それらすべてがバルサたちの生きるその時に現れてくる不思議さを思いながら、否、バルサたちが「もうひとつの世界」を引き寄せるに足りるからこそ現れているのではないかとも思えてなりません。実際、バルサとチャグムは過酷な状況の中でも人を生かし、自分を救い、それが大きな物語である新たな歴史を紡ぐことになっているのですから。

文庫版に際し、ちょっと残念だったのは最後の解説が肌に合わなかったことだけ。作者は素晴らしい解説と述べられていたものの、一体誰に向けて、どんな読者に向けてこれは書かれたのだろうか。作品を称賛するためにあまりにも「作り物」という言葉が強調されていて、作品の余韻を味わいたい頃に、興ざめしてしまうような内容だった。ここまで読んできた読者はストーリーをすでに味わっている。解説が果たさなければならない役割が規定されているとは思わないけれども、たとえばそういう見方もできるのかという、自分とは違う視点を与えてくれていると、作品の面白さが更に増すように思える。その点でいうと、これまでのシリーズの解説は、なるほどと思わず唸らせられる名解説が続いてきていただけに、ちょっと残念に思ったのは事実。これはあくまで一読者としての意見です。

ひとまず『守り人・旅人シリーズ』の新潮文庫版の刊行は今の時点ではここまでなので、先を読みたい溢れる気持ちを抑えつつ、次作の刊行を楽しみに待ちたいと思います。

◎関連リンク◎

上橋菜穂子『神の守り人―下 帰還編―』(新潮社)

守り人&旅人 スペシャルページ(偕成社)

85冊目 『精霊の守り人』(2009年11月28日)

86冊目 『闇の守り人』(2009年11月30日)

87冊目 『夢の守り人』(2009年12月19日)

88冊目 『虚空の旅人』(2009年12月20日)

89冊目 『神の守り人 上 来訪編』(2009年12月23日)

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