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2009年12月19日 (土)

87冊目 『夢の守り人』

早朝のあまりの冷え込みに、自然と目が覚めてしまう今日この頃。もうすぐ2009年がいろんな思いを連れて去ってしまうので、今のうちにいろいろと書き記しておきたいと思います。

今回紹介するのは、『守り人・旅人シリーズ』の第三弾である、

『夢の守り人』 上橋菜穂子 2008.1 新潮社(新潮文庫)

夢の守り人』 上橋菜穂子 2008.1 新潮社(新潮文庫)

という作品です。

目次を紹介すると、

序章 〈花〉の種が芽吹くとき

第一章 〈花〉の夢

第二章 〈花守り〉

第三章 〈花〉への道

第四章 〈花の夜〉

終章 夏の日

となっています。

カンバル王国で、自らの運命としっかり対峙したバルサ。本作では、旅の途中、バルサが「人狩り」から一人の若者を救おうと立ち上がる場面から物語は語り始められます。

その圧倒的な強さでバルサが救った若者・ユグノが「リー・トゥ・ルエン(木霊の想い人)」だったことから、バルサの新たな旅が始まるのです。ユグノの歌声は不思議な力を秘めていました。

ユグノの声は、風よりも軽く、さざ波よりも繊細に、大気をゆらした。そして、あたりの木々のあいだ、草のあいだから、いくつもの声が――細く高い、低く太い、なんともいえぬ複雑な旋律をもった声が、響きはじめた。

糸が織りあわされるように、声と声とが響きあい、響きが響きを織り……バルサは全身が波にゆすられ、泡だっていくような――意識さえも泡だっていくような、たまらない感覚にとらわれていた。

身体と心をかたちづくっているものの、ひとつひとつが、歌声に共鳴して、ふるえている。

湧きあがるよろこびが、渦を巻いて天にのぼり……消えていった。(P41-42)

場面は変わって、バルサの幼なじみで呪術師のタンダは姪のカヤを診察していました。カヤは眠りについたまま、何をしても起きなくなってしまっていたのです。原因がはっきりと分からないまま、師匠であるトロガイにその話をしたところ、なんと一ノ妃も眠ったまま起きなくなってしまっているといいます。

トロガイは、ぽつりと「花の夜」がおとずれたのかもしれないと言うと、はじめてタンダに自分の哀しく、不思議な過去の話を語りはじめました。話が終わった後、カヤを救いたいというタンダにトロガイは釘をさします。

「バルサとおまえには、決定的にちがうところがあるんだよ。気づいてるかい?あいつは、ひどくさびしいやつで、いつも自分の人生を、今いるところまでだと思ってる。先を夢みていないから、命をかける瞬間の思いきりがちがう。

でも、おまえはそうじゃない。おまえは先を夢みてる。この先の人生を楽しみにしているだろう?おまえが命をかけるのは、こうせねばならぬからという信念のためだ」

「きっと、おまえは自分の信念のために死ぬだろうよ。おまえは、そういう馬鹿だ。

だけど、いやじゃないか、え?死ぬ瞬間に、この先にあったかもしれない未来を思いうかべるような死にざまは、さ。――おまえに、そういう死に方をしてほしくないだけさ。」(P84)

トロガイの忠告を受けつつも、カヤを救うために自らの魂を飛ばしたタンダ。花が咲く異界にやってきたタンダは、悪意を持ったなにかに魂を捕らわれてしまい、現実の自らの身体を乗っ取られてしまいます。

ユグノを狙う化け物と化したタンダと、対決しようとするもタンダのことを思い、なかなか傷つけることが出来ないバルサ。これまで命のやり取りを数多くこなしてきたバルサにとっても、幼なじみの身体を持った化け物と戦わねばならぬという、これほど辛い戦いはかつてないものだったに違いありません。

シリーズ第一作で登場した人物たちも数多く登場するのですが、中でも成長したチャグムの姿が描かれていること、そして第一作に本作の重要な伏線があったことに気づかされることなど、シリーズとして、物語の深みを感じさせられる第三作となっています。

タンダやトロガイについての描写が多く、バルサ以外の登場人物の人となりを更に知ることで、この世界について、読者がより深く嵌っていく作品に仕上がっていると思います。

さて、物語を読み終えた後のもう一つの楽しみと言えば、「解説」ですが、本作ではその役目を養老孟司さんが務められていて、これがとても素晴らしい文章でした。読み終わった後の余韻を更に豊かなものにしてくれていると思います。

よいファンタジーには、悪人はいない。上橋さんの「守り人」シリーズはその典型である。良い人の、悪い行動があるだけである。人はよい動機からですら、悪いことをする。むしろよい動機があるからこそ、悪いことをする結果になる。それがわかってないと、ただの善玉、悪玉になってしまうのである。(P347)

皇太子チャグムは、楽しかったバルサたちとの旅や過ごした日々を思い出しながら、帝位継承者としての自らの運命を受け入れようとしていますが、まだまだ若いチャグムにとって、その運命を呑み込むには時間がかかりそうです。

当代最高の呪術師としてその名を広く知られるトロガイにも、悲しい若い時代があったことが語られ、どれほど月日が経とうが、未だにトロガイにとって向き合うことが辛い出来事が過去にあったのだと本書では明かされています。

本シリーズが多くの人に愛されるのは、登場する人物の誰もが順風満帆ではなく、その社会的な位置や運命に翻弄され、悲しみや辛さを背負いながらも、絆を結びあい、喜びを分かち合っていくところにあるような気がします。

バルサ、タンダ、トロガイ、そしてチャグム。物語の中を生きる彼らの生き様。シリーズが進むにつれて、彼らだったらこうするだろう、こう言うだろうというのが、読み手である自分にも分かってくるのが嬉しくて、更に続いていく彼らの旅路を追いかけています。

◎関連リンク◎

上橋菜穂子『夢の守り人』(新潮社)

守り人&旅人 スペシャルページ(偕成社)

85冊目 『精霊の守り人』(2009年11月28日)

86冊目 『闇の守り人』(2009年11月30日)

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