カテゴリー「♪ほっ」の14件の記事

2009年11月22日 (日)

83冊目 『ファイトじじいクラブ』

…二人の祖父に捧ぐ

過日、11月1日、母方の祖父が天寿を全うし、この世を去りました。

初孫だった私は、妹と共に幼いころからずいぶんと可愛がってもらい、今もたくさんの楽しかった思い出が心に残っています。奇しくも、『二十一世紀に生きる君たちへ』を贈ってくれた祖父を思いながら、感想記事を書いたのは先月末のことであり、その矢先の急な出来事で、正直なところかなり動揺しました。

ちょうど5年前に父方の祖父も他界しましたが、私にとって越えるのが大変だった10代の半ばから終わりにかけてを支えてくれた、二人の祖父には本当に感謝の思いでいっぱいです。

あの一番苦しかった時の家族の支えなくして、今の私の社会生活は到底考えられませんが、あの頃みんな健在であった、4人のおじいちゃんとおばあちゃんには、生きるということ、そのものを教わり、これからもそれを心の中に大切に抱いて生きていきたいと思います。

実は、祖父が亡くなる少し前に、私はある本を書店で見つけ、その内容に心を打たれて、ここで紹介しようと思っていたのですが、まさかこのような形になるとは思っていませんでした。

祖父がいなくなってしまった寂しさを感じながら、そしてずっと可愛がってもらったことに感謝の思いをこめて、今回私が紹介するのは、

『ファイトじじいクラブ』 山本健太郎 2009.9 エンターブレイン(BEAM COMIX)

ファイトじじいクラブ』 山本健太郎 2009.9 エンターブレイン(BEAM COMIX)

という本です。

祖父は読書家で、愛用していた単車で頻繁に図書館へ通っていて、家にもたくさんの蔵書がありました。今でも家族みんな、それぞれ趣味は違えど本が好きなことに変わりはありませんが、祖父は私が子どものときから、この本は読んだ方がいいと、たくさんの本を勧めてくれました。

私は以前は、読書したり本を買うということにそこまで力を入れていなかったのですが、働き出して、自分で賃金を得るようになってから、本を読むこと、本を買うことに拍車がかかり、今に到っています。

本を買って、中に目を通してから、『あっ、失敗したな…、とほほ』と思うことも時々ありますが、後悔をおそれていたらいい本と出会う機会を逃してしまうかもしれないと思い、本だけは惜しまず買うことにしています。

それで、この本を書店でぱっと見かけた時、作者も聞いたことがないし、宣伝も見たことがなかったのですが、タイトルと表紙の挿絵に何か感じるものがあり、期待半分で手にしたわけです。すいません、今回はかなり前書きが長くなってしまいましたが、いよいよ中身を紹介します。

目次を見ると、

ファイトじじいクラブ

空の下の人々

人になる

目堂君は幸せ

シショーカムバック

という5つの短編が収められており、表題作である「ファイトじじいクラブ」は100頁ほどの中編となっています。

小学校1年生のリュウ太君は毎晩不思議な夢を見ていました。夢の中では二人の祖父が本気で決闘していて、夢から覚めると両親に、今日は父方、母方どちらが勝ったと伝えるのです。

リュウ太君は、学校で上級生がケンカを売ってきても、祖父の決闘の姿を思い出し、怯むことなく挑みます。でも…まだ1年生、力でも体格でも劣るリュウ太くんは負けてしまうのですが、この夜も夢に二人の祖父が現れて、リュウ太くんを励まします。

なぜ毎晩夢の中で、祖父二人は決闘し、その姿をリュウ太君に見せているのか。そこには悲しい理由があったのです。

リュウ太君が生まれるのを楽しみにしていた二人の祖父は、その出生を感じ取りながら、時を同じくして亡くなってしまったのです。以来、夢の中で生き様を伝え、リュウ太君の成長を見守るために、決闘を繰り返していたのです。そんな祖父の思いをちゃんと受け止めて、リュウ太君は立派に成長していました。決して怯まずいろんなことに立ち向かうリュウ太くんでしたが、両親が離婚するという大きな出来事を前にして、ある決意をするのでした…。

思いがけず、素晴らしい作品に出会ったと思いました。リュウ太くんの健気さと祖父の思い、その両方に涙腺が緩んで、この作品がとても愛おしく感じました。

他の4つの短編について、表題作に比べると、画も若干洗練されていない部分を感じつつも、独特の世界観があって、どの作品も共通して「切なさ」を感じさせられるところが印象に残りました。

「空の下の人々」を読んで、井上陽水さんの『傘がない』を思い出しました。

著者の山本健太郎さんは、まだ他の作品を出されていませんが、これから注目していきたいなと思います。

そして私は、これからも本を読んでいきます。

父方 母方 ありがとう(P73)

追記1:2010年2月14日(日)

今月発売の、『ダ・ヴィンチ 2010年3月号』の中で、日本で初めてマンガ学部を設立した京都精華大学マンガ学部の特集記事があったのですが、卒業生として、山本健太郎さんが紹介されていました。

1982年京都生まれということで、年も近かったんですね~。厳密には、山本さんはマンガ学部の前身である、芸術学部マンガ学科を卒業されたようです。

ところで余談ですが、いつもなら発売日をしばらく過ぎても本屋さんに置いてある『ダ・ヴィンチ』が数日後には置いていなくて、少し大きい書店に探しに行ってきました。なるほど、今月は堺雅人さんの特集記事が巻頭で組まれていました。う~む、恐るべし。誰の特集記事を組むかで、販売部数も相当左右されるんだろうなと感じさせられた出来事でした。

◎関連リンク◎

ファイトじじいクラブ ビームコミックス(株式会社エンターブレイン)

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【オススメ】 山本健太郎/ファイトじじいクラブ(マンガ一巻読破)

はっちの太鼓本 太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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2009年10月21日 (水)

81冊目 『花散らしの雨』

今年、世界中で猛威をふるっている「新型インフルエンザ」。私の勤め先でもとうとう社員の感染者が出たようで、一気に拡がってしまうことのないよう、こまめな消毒とマスク着用が呼びかけられています。

思い返せば、自身にとっては最後に季節性インフルエンザにかかったのは高校1年生の冬でした。40℃を超える高熱にうなされましたが、不幸中の幸いというべきか、休んでいる時に長野冬季オリンピックの開会式を見ることが出来て嬉しかったことを思い出します。

さて、今回私が紹介するのは、先日紹介した『八朔の雪』に続く、みをつくし料理帖シリーズ待望の第二作、

『花散らしの雨』 髙田郁 2009.10 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

花散らしの雨』 髙田郁 2009.10 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

です。今月15日の発売日、仕事帰りに本屋に立ち寄り、なんとか見つけることが出来た時、ほっとしました。驚いたのは発売日にして第二刷発行となっていたこと。『八朔の雪』が巷で評判になっているだけに、発売前にして増刷を決定していたのでしょうか。

早く読みたい、でも急いたらもったいない。

というわけで、いつものスタイルで通勤中にちょっとずづ読みました。案の定、仕事前にうるっときてしまいましたが。

前作では、澪の豊かな発想と周りの人々の協力によって、少しずつ「つる家」に澪の料理を楽しみにやってくるお客さんが増えてきたところで、付け火によって店が焼失してしまい、そこからもう一度「つる家」を再建しようというところで幕を下ろしましたが、今作では、新たな「つる家」を武家屋敷が広がる元飯田町に再建し、澪や種市らが店を切り盛りしているところから話が始まります。

目次を見ると、

俎橋から――ほろにが蕗ご飯

花散らしの雨――こぼれ梅

一粒符――なめらか葛饅頭

銀菊――忍び瓜

巻末付録 澪の料理帖

となっています。

澪を取り巻く、各々に個性があり、そして背負っているものがある登場人物たち。前作から引き続き登場する面々に加えて、今作でも印象の強い、そして今後話の中で活躍していくであろう人物が何人か登場します。

その中でも、苦労の絶えない澪と重なるところがある「ふき」という少女が登場するのが、今作の最初の物語である「俎橋から」です。

江戸の料理番付で大関の地位にありながら、幾度とその暗部の一端を覗かせてきた「登龍楼」。これまで様々な仕打ちに屈することなく料理を続けてきた澪でしたが、新たに「つる家」で下足番として働くことになった「ふき」との関わりによって、とうとう直接対決に臨むことになります。

誰しも簡単には口に出来ない色々な事情を抱えている、そしてそれを悪用しようとする輩がいる。「ふき」の姿に自身の苦労した少女時代を見た澪は、裏で不審な行動をしている「ふき」を責めようとはしませんでした。澪の「ふき」への思いやりは、裏で糸を操っている者への怒りへと転じます。

これまでやれ孫だ、子どもだ言われていた澪でしたが、「ふき」から「澪姉さん」と呼ばれて、くすぐったいような笑顔を見せる場面では、こちらも澪の表情が想像できて、思わず微笑んでしまいました。

共に働く仲間、仕入先、お客さん。澪の周りにはどんどん新たな素敵な出会いが広がっていきます。個人的には「りう」という、一時「つる家」で手伝いをすることになったおばあさんが強く印象に残りました。老獪ともいえる振る舞いと的を射た言葉の数々に、また登場してほしいなと思いました。

そんな日々の中で、大切な仲間に病魔が忍び寄ります。現実の世界で拡がるインフルエンザ、作中では麻疹が命を脅かそうと猛威をふるいますが、澪をはじめとする登場人物たちの思いやり、揺るぐことのない深い愛情によって、そんな危機的な状況を乗り越えようと、病と必死になって対峙する場面が描かれます。

危機を乗り越える度に、その絆はより強固なものになっていき、いつしか皆が澪にとって家族のような存在になっていきます。前作で謎を多く残した小松原でしたが、今作ではなかなか活躍する機会がなかったようです。しかしながら澪にとってその存在は日増しに大きくなっているようで、この謎の侍についてあまり多くを語らずなところが、今後のこのシリーズの布石となるのかなと期待してしまいました。

相変わらず澪の作る料理はどれもが美味しそうで、一体なぜでしょうか。出来上がったものを見るだけでなく、作る過程から追っているから、より現実的に想像出来てしまって、読者としてはやられてしまうのかもしれないですね。本当にこのシリーズ、今後の刊行が楽しみです。

文庫本の帯に「文字が大きくなりました」と書かれていて、確かにやや大きめになっているので、どの世代でも更に読みやすくなったと思います。本作のはじめに、これまでに登場した「つる家」をはじめとする店や寺社の位置関係が分かる地図が載っていて、思わず見入ってしまいました。

最後に、これまでの二作を通じての登場人物を整理して、次回作を楽しみに待ちたいと思います。

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:幼くして水害により両親を失い、かつての奉公先の「天満一兆庵」を再建することを目標として、「つる家」の調理場を切り盛りしている本作品の主人公。小松原のことが気になっている。子どもの頃、易者・水原東西に、「雲外蒼天」の相と言われる。齢一九。
(澪、お澪坊、下がり眉、澪さん、澪姉さん)

「この道で花を咲かせることが、私があの水害で親の命と引き換えに生き残った理由のように思えてならんのだす」(八:P129)

種市:今は亡き娘の名を冠した「つる家」の店主として、澪を実の娘のように温かく見守る存在。腰を痛めて蕎麦を打てなくなってしまい、「つる家」を澪に託した。齢六十五。
(旦那さん)

「人間、生きてりゃ泣きたくなるくらいのことはあらぁな。泣いて良い、泣いて良いのさ」(八:P54)

:大坂で名の知れた料理屋「天満一兆庵」の女将だったが、店が焼失してしまい、「天満一兆庵」を再建するために、行方不明になっている若旦那で息子の佐兵衛を探している。澪にとっては幼いころの命の恩人であり、母ともいえる存在。心労で体を弱くしてしまっているが、その器量の大きさや機転のきかせ方、一本筋の通った言動は、さすがは元女将と周囲に言わしめるもの。齢四十八。
(ご寮さん)

「せや。料理は料理人の器量次第や。」(八:P223)

小松原:「つる家」の常連の侍だったが、店が元飯田町に移ってからなかなか姿を見せなくなった。澪の料理に対して、これまで鋭い指摘をしてきた。どこに仕えているのかなど謎が多い。齢三十前後。
(小松原さま)

「江戸っ子は諦めの良さが身上だが、それを見習うなよ。あれこれと考え出せば、道は枝分かれする一方だ。良いか、道はひとつきり。それを忘れるな」(八:P147)

永田源斉:若き町医者。御典医・永田陶斉の次男だが、「父は父、私は私」と、一介の町医者として澪たちに接し、人々からの信頼も厚い。澪の料理や用いる食材について、医師としての立場からその効用について説き、またその発言が澪のひらめきにつながることも多い。齢二十半ば。
(源斉先生)

「口から摂るものだけが、人の身体を作るのです。澪さんがついているのだ、ご寮さんはきっとお元気になられますよ」(八:P125)

おりょう:澪と芳が暮らす長屋の、向かいに暮らすおかみさん。「つる家」が繁盛しだしてから、店の接客を手伝うようになった。齢四十八。

「あたしゃ知らなかったよ。本当に美味しいものを食べる時は、無口になるものなんだね」(八:P200)

伊佐三:おりょうの亭主にして、腕の良い大工。初の棟梁仕事は両替商「伊勢屋」の普請。

太一:おりょうと伊佐三の息子。火事で身寄りが無くなり、おりょうたち夫婦に引き取られた。

ふき:「つる家」の下足番。両親を亡くし、幼い弟は「登龍楼」に置かれている。澪が「登龍楼」に乗り込み、すべてが明るみに出たことで、辛い隠密の役目から抜け出すことが出来た。澪を姉のように慕っている。齢一三。
(ふき坊、ふきちゃん)

:ふきの弟で、「登龍楼」で奉公している。齢六、七。
(健坊)

清右衛門:有名な戯作者。口は悪いが、裏表のないその言動に澪の気持ちが救われる場面も。「登龍楼」との一件以来、すっかり「つる家」の常連となった。りう曰く、「あのひとは今にもっと化けますよ」。

孝介:口入れ屋の店主。「つる家」にふきを勧めた。

りう:孝介の母。孝介がふきの一件の穴埋めとして、人手の足りない「つる家」に寄こした老婆。腰はひどく曲がっていて、歯も上下とも無いが、長いこと大手門の下馬先の茶屋に勤めていたため、その働きぶりは見事なものだった。齢七十五。
(りうさん、りうばあちゃん)

「食べる、というのは本来は快いものなんですよ。快いから楽しい、だからこそ、食べて美味しいと思うし、身にも付くんです。」(花:P198)

留吉:流山の酒屋「相模屋」の奉公人。店主・紋次郎の苦心の品、「白味醂」を売り込みに江戸に出てきた。

美緒:両替商「伊勢屋」のひとり娘。育ちの良い美しい娘で、医師の源斉を好いており、そのために縁談を壊してしまったほど。もう一人の「みお」。源斉が足繁く「つる家」に通っているため、澪に嫉妬している。

采女宗馬:日本橋「登龍楼」の店主。元は煮売り屋だったが、今では料理番付の東方大関に選ばれるほどの、江戸一番と言われる料理屋にまでのし上がった。清右衛門曰く、「生半可な悪ではない、もっと大物」で、興味は権力と金。

あさひ太夫:吉原一の花魁と言われる、翁屋の太夫。廓ぐるみで作り上げた幻の花魁とも言わてれるが…。

又次:翁屋で料理番をしており、或るひとのために、澪に料理を頼みにやってくる。齢三十半ば。

伝右衛門:吉原の大見世、翁屋の楼主。源斉先生の患者でもある。

野江:唐高麗物屋「淡路屋」のこいさん(末娘)で、澪の幼馴染み。易者・水原東西に、太閤はんにも勝る「旭日昇天」の相で、ここまでの強運の相を見るのは初めてやと言わしめた。水害により「淡路屋」は流され、その消息は分からなくなってしまった。

「澪ちゃんは私の大事な友だちやんか。親の商いは関係あらへん」(八:P92)

伊助:澪の父で、漆師。澪が八つの時に水害により命を落とした。優れた漆塗りの技を持っており、伊助の作った箸は「天満一兆庵」でも出されていた。

わか:澪の母。伊助とともに水害により命を落とした。

つる:種市の娘。一七の時に亡くなった。

嘉兵衛:「天満一兆庵」主人。度重なる心労により、澪に「天満一兆庵」の再建を託し、息を引き取った。

「才のない者には、恥かかんよう盛大に手ぇ貸したり。けど、才のある者には手ぇ貸さんと、盛大に恥かかしたり」(八:P12)

佐兵衛:「天満一兆庵」江戸店の主を任されていた若旦那。吉原通いで莫大な借財を負い、江戸店を手放して消息を絶った。

追記1:2010年1月24日(日)

「ブックサービス」によると、来月2月13日に、みをつくし料理帖シリーズ待望の三作目が発売予定のようです。あんまり急いてはいけませんが、早く続編が読みたいですね~♪

2010年2月期文庫発売予定情報(ブックサービス)

追記2:2010年2月14日(日)

どうやら発売日が一ヶ月延びたようで、「オンライン書店 本やタウン」によると、みをつくし料理帖シリーズ待望の第3弾『想い雲 みをつくし料理帖』は、3月13日に発売予定のようです。

今日の朝日新聞・読書面の「売れてる本」のコーナーで、『八朔の雪』が紹介されていました。記事によると、現在、『八朔の雪』が19刷・18万部、『花散らしの雨』が13刷・13万5千部に達しているそうです。個人的には、もっと火がついてもいいんじゃないかと思うくらいの本当に素敵な作品なので、今後もファンの人が増えていったらいいなぁと思っています。

文庫近刊情報 最新 か行(オンライン書店 本やタウン)

◎関連リンク◎

花散らしの雨 みをつくし料理帖(角川春樹事務所)

79冊目 『八朔の雪』(2009年10月11日)

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2009年10月11日 (日)

79冊目 『八朔の雪』

台風一過、爽やかな空気と秋の空。やっぱり1年の中でこの時期が一番好きです。

思索の秋。澄み渡る空気の中で、あれこれといろんなことを考えますが、それはひとまず置いておくとして、今回私が紹介する、いや是非とも紹介したいのは、秋の再読本第四弾、

『八朔の雪』 髙田郁 2009.5 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

八朔の雪』 髙田郁 2009.5 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

という本です。この本を知ったきっかけは、発売されてすぐに新聞に掲載された出版広告でした。

角川春樹さんが「十年に一冊の傑作」と激賞されている作品がどんなものかと興味が湧き、これまで時代小説にはなかなか手が出なかったのですが、一度読んでみようと仕事帰りに本屋さんで手に取り、通勤時に読んでみることにしました。

江戸・神田の御台所町に店を構える蕎麦屋「つる家」。大坂から出てきた澪(みお)の出した料理が客の怒りを買ってしまったところから作品は幕を開けます。

丸顔に、鈴を張ったような双眸。ちょいと上を向いた小さな丸い鼻。下がり気味の両の眉。どちらかと言えば緊迫感のない顔で、ともに暮らす芳からも「叱り甲斐のない子」と言われている。それなのに料理が絡むと、自分でも抑えようのない感情が生まれて、それが顔に出てしまうのだ。(P7)

店主の種市が作る蕎麦と酒目当ての客で繁盛している「つる家」。大坂と江戸の味の好みの違いになかなか慣れることが出来ない齢十八の澪に、種市は店で出す酒に合う一品を作ってほしいと頼むのですが…。

本書の目次を紹介すると、

狐のご祝儀―ぴりから鰹田麩

八朔の雪―ひんやり心太

初星―とろとろ茶碗蒸し

夜半の梅―ほっこり酒粕汁

巻末付録 澪の料理帖

となっていて、表題作を含む4つの中編の連作による作品です。

読み進めるうちに少しずつ澪の生い立ちが明らかになっていくのですが、幼くして天涯孤独の身となってしまった澪と、大坂でも名の知れた料理屋「天満一兆庵」の女将だった芳との親子のような結びつきの強さには、何度も胸にぐっとくるものがありました。

澪には確かに生まれ持った料理の才があります。しかし、それはいわゆる天才的というよりは、澪を取り巻く人々との強い結びつきや思いやり・情の深さ、そして叱咤激励してくれる人々の存在によって開花しているものなのだなと感じました。

感情の波が去って、澪が鼻を啜りながら顔を上げると、種市の顔深くに刻まれた皺を涙が伝っていた。はっと息を飲んだ澪を見て、種市は初めて自分が泣いていることに気付いた。袖でぐいっと涙を拭うと、照れてみせる。

「人間、生きてりゃ泣きたくなるくらいのことはあらぁな。泣いて良い、泣いて良いのさ」(P54)

苦労し、試行錯誤を繰り返しながらも、徐々に、そして着実に江戸での評判を上げていく澪に対して、それを妨害しようとするものが現れます。自分の周りの大切な人たちが傷つく姿を目の当たりにして、自分の道を諦めてしまおうと考えた澪に、思いがけない人物からの「思い」が伝えられます。

幼い日、澪は易者に「雲外蒼天」の相だと言われたことがありました。

「頭上に雲が垂れこめて真っ暗に見える。けんど、それを抜けたところには青い空が広がっている――。可哀そうやがお前はんの人生には苦労が絶えんやろ。これから先、艱難辛苦が降り注ぐ。その運命は避けられん」

「けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほど澄んだ綺麗な空を。ええか、よう覚えときや」(P98)

澪の行く手には、辛いこと、苦しいことが次々に起こります。しかし、澪は一人ではありません。父親のように深い思いやりのある種市、母親のようにいつも見守ってくれている芳、澪を励ましてくれる医師の源斉先生、そして澪の作る料理に時に厳しい、しかし的を射た助言をくれる侍・小松原の存在。

困難を前にしてお互いを頼りにし、たとえ心が折れてしまいそうになっても、それでも立ち向かっていく中で成長していく澪と、澪を取り巻く人々の絆や情の厚さに、何度も涙腺が緩みました。澪だけでなく、種市や芳もこれまで生きてきた中で辛いことを抱えてきており、それだけに澪の作る料理が人々を幸せにしてほしいと切に祈りたくなります。

私は時代小説にこれまで馴染みがなかったのですが、本書はとても読みやすく、情に満ちているけれどもくどくなく、その上出てくる澪の作る料理がものすごく美味しそうで、読んでいると作中の客同様、思わず生唾を飲み込んだという、本当に素敵な作品でした。

ここで朗報ですが、『八朔の雪』に続く、第二弾『花散らしの雨』が近日発売されます。

本書では明らかにならなかった、小松原が一体何者なのかということや、「天満一兆庵」再建への道筋がどうなるのか、そしてあの「太夫」との関係は、など気になることがいっぱいです。

何より澪の創作した新たな料理が、文章で味わえるのが本当に楽しみです。続編をここまで期待した作品は自分にとっては久々のような気がします。

今回再読したことで、続編を読む体制はバッチリです。自分の読みたい本の傾向は自分もある程度偏っているし、人それぞれだと思いますが、本書はこれまで時代物に馴染みのなかった読者にとっても手に取りやすい本だと思います。

澪の下がり眉も味わい深く見える素敵な装画をされているのは、多くの作品で活躍されている卯月みゆきさんです。

ちなみに、『八朔の雪』を読んだ後、あまりの読後感の良さに、著者の別の作品も読んだところ、それもすごく良かったために、髙田郁さんはすごい!と私は一躍ファンになってしまいました。髙田さんの今後のご活躍に期待しております。もっともっと作品を読んでみたいです。

頭上には今年最後の青空が広がっている。真澄の空だ。

雲外蒼天。

忘れへん。生きてる限り、絶対に忘れへん。(P251)

◎関連リンク◎

八朔の雪 みをつくし料理帖(角川春樹事務所)

『八朔の雪 みをつくし料理帖』髙田郁 立ち読み(e-hon)

版画家・イラストレーター 卯月みゆき webサイト

vol.2「八朔の雪ーみをつくし料理帖」髙田 郁(L4BOOKS)

・『花散らしの雨 みをつくり料理帖』 髙田郁 2009.10 角川春樹事務所(ハルキ文庫)

81冊目 『花散らしの雨』(2009年10月21日)

はっちの太鼓本 太鼓本だ~♪どどんがどんっ!

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2009年10月 4日 (日)

78冊目 『うめ版』

辞書・辞典の世界では電子辞書の発展と普及が目覚ましいようですが、私はアナログで紙をペラペラと手繰るのが好きなので、紙の辞書はまだまだ手放せません。

教育現場、特に小学校においては辞書を引くことの効用に注目が集まっているとも聞きます。辞書と一口に言ってもその目的に応じて、出版社もカテゴリもたくさんの種類がありますが、この本は誰のための辞書として、どこに分類されるのでしょうか。今回私が手にしたのは、

『うめ版』 新明解国語辞典×梅佳代 2007.7 三省堂

うめ版』 新明解国語辞典×梅佳代 2007.7 三省堂

という本です。

新明解国語辞典といえば、辞書好きには有名な、国語辞典でも異彩を放つ個性の強い辞典。そして梅佳代さんといえば、『うめめ』や『男子』などの写真集が注目された、新進の若手写真家。この異彩の辞典と話題の写真家のコラボレーション作品が、『うめ版』です。

『うめ版』 新明解国語辞典×梅佳代

で、どのように構成されているかというと、見出しとなる「ことば」に対して、右のページに新明解の解説書きがあり、左のページにその「ことば」を想起させるような写真が載せられています。

シンプルに言うとそれだけなのですが、ページを捲っていくとこれがなかなか深いんです。新明解のことばの解説だけでも従来味があるものだったのですが、これまた味のある梅佳代さんの写真が添えられたことで、ぐっと迫ってくるものがあります。

やはりことばをことばで説明するということには限界があるのかもしれないということと、どんなに巧く工夫しても「ことばに出来ないものがある」ということ。それを梅佳代さんの写真が見事な表現として、ことば以上にそのことばを言い表しているというところでしょうか。

こうして見ていると、梅佳代さんの写真集『男子』こそ、まさに「男子」ということばを、ことばを用いることなく表現した、本書の先駆けともいえる存在であったんだなと感じました。

個人的には、「生一本」や「ライバル」、「分からず屋」といった項目が特に好きでした。梅佳代さんの作品には必ずといっていいほど、人物か動物が写っていて、いい顔だけでは表せない人間のいろいろな複雑な表情が見れて、本当に大好きです。

個性の強い新明解だからこそ、梅佳代さんの生命力の強い写真たちとがっぷり四つに組んで渡りあえている気がしました。この作品をヒントに、たくさんの人がその写真をある「ことば」に見立てる、名づけてみるのも面白いだろうなと思いました。

「わたし版」の作品が出来たら楽しいでしょうね。そんなことを感じたインパクトの強い、ことばの写真集でした。

◎関連リンク◎

うめ版 新明解国語辞典×梅佳代(三省堂)

『三省堂 新刊 NEWS』号外 うめ版 新明解国語辞典×梅佳代(三省堂)

新明解国語辞典第六版(三省堂辞書サイト)

うめかよ参上!(ほぼ日刊イトイ新聞)

・『うめめ』 梅佳代 2006.9 リトルモア

・『男子』 梅佳代 2007.7 リトルモア

・『じいちゃんさま』 梅佳代 2008.7 リトルモア

・『新明解国語辞典 第6版 並版』 2004.11 三省堂

・『新解さんの読み方』 夏石鈴子 2003.11 角川書店(角川文庫)

・『新解さんリターンズ』 夏石鈴子 2005.9 角川書店(角川文庫)

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76冊目 『エア新書』

10月に入り、衣替えの季節になりました。

会社でもいわゆるクールビズが終わり、ネクタイの着用が始まりましたが、首元を閉じただけで暑さが厳しいです。ワイシャツの中の空気の換気口が少なくなっただけで、こんなにも違うんですね。私も同僚も結局みんな腕を捲くって仕事しております。今年は暖冬の予想が出ているだけに、暑がり一族にはまだまだ辛い日々が続きそうです。

さて読書の秋に、ちょいとユーモアを取り入れようと今回私が手にしたのは、

『エア新書』 石黒謙吾 2009.1 学習研究社(学研新書)

エア新書』 石黒謙吾 2009.1 学習研究社(学研新書)

という本です。そういえば新書をここで取り上げるのはかなり久々な気がします。

数年続いた新書ブーム、新書の創設ラッシュも一段落した感がありますが、書店で新書のコーナーを覗いてみると、毎月膨大な数の新書が未だに出版され続けているのに驚きます。

正直、あまりの多さに何がどの出版社から出ているのか把握しきれないですね。自分の読書傾向が変わってきたこともありますが、新書を買う機会が減ってきた気がします。

で、今回紹介する新書なんですが、『エア新書』。ピンと来られる方も多いと思いますが、ちょっと前にネット上で話題になった「エア新書」というサイトがきっかけで、本物の編集者である著者が、「この人ならこんなイメージがあるな」と、100冊の架空の新書を考えてまとめた本です。

学研新書から発売されているのですが、中身をペラペラと捲ってみると、本書『エア新書』と同じような装丁で、ずらっと表紙ばかりのページが続きます。

メインタイトルとサブタイトル、そして帯コピー。この三位一体と著者名が組み合わさった瞬間、それは「笑い」と「感心」となって昇華します。

脳科学者の茂木さんは実際にたくさんの本を出版されていますが、こんな本は出ないと分かっているだけに、不思議な説得力がありますね。

Airshin

そしてこの本、ただのお笑い本ではありません。読んでみて、実際に自分で作ってみることで、間違いなく脳が活性化されます。発想の筋トレです。それも苦しくない、楽しい筋トレ。この本を参考にして、有名人でもいいですが、身の回りの人で想定してみることも強力にオススメ。(P2-3)

私も実際に1冊考えてみました。

もしも甲子園の魔物が本を書いたら…。一体どれだけの球児を泣かせ、どれだけの観衆に感動のドラマを見せてきたのか。その裏話を語ってほしいですね~。

エアギターやエア焼肉。人間の想像力の産物である「エア○○」は、今後も人類とともに進化していきそうですね。(本当ですか?)

◎関連リンク◎

エア新書(学研新書)

エア新書(BLUE ORANGE STADIUM)

石黒謙吾の『エア新書』立ち読みブログ

エア新書

POPit

POPPIN BOOKS

腰帯ドットコム

売れる!書籍名メーカー 魔法のホンデレラ

エア焼肉

今年の“エアブーム”は『エア新書』か?(デイリーポータルZ)

新書ズラリ(2006年12月1日)

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2009年3月22日 (日)

68冊目 『深夜食堂』

あっ、この人はこれが好物なんやと分かったとき、急に親しみが湧いてきたり、身近に思えたりすることってないですか?食べ物に関する共感や思い出というものは、思っている以上に人間関係において重要な役割を果たしているような気がします。今回私が手にしたのは、

『深夜食堂』 安倍夜郎 2007.12 小学館

深夜食堂』 安倍夜郎 2007.12 小学館

という本です。

営業時間は夜12時から朝7時頃まで。人は「深夜食堂」って言ってるよ。客が来るかって?

それがけっこう来るんだよ。(第1夜)

繁華街の片隅で深夜にしかやっていない、小さなめしや。メニューにあるのは、豚汁定食、ビール、酒、焼酎、それだけ。それでもお客さんはやってくる、メニューになくても勝手に注文すれば、できるものならおやじが作ってくれるから。

目次代わりのお品書きには、ずらっと料理が並んでいて、その一つひとつに誰かさんのちょっとした人間ドラマが描かれているのです。一つのメニューについて描かれる、そのわずか数ページに、登場人物の喜怒哀楽や生き様が見事に凝縮されていて、それだけでも見事なのに、それに加えて出てくるメニューがどれも美味しそうで、

あなたの腹と心の満たし処

という謳い文句に偽りなしの作品です。

黒髪が美しい娘を自慢していた宮本さんだったが、娘がグレてしまい憔悴してしまう「焼き海苔」。

ボクサーのカッちゃんと、アケミさん・幼いマユちゃん親子を結び付けた「カツ丼」。

食パン持参でやってくる新聞奨学生の中島君が注文する「タマゴサンド」。

おレンさんが注文するのは、かつて息子と自分の命を救ってくれた「あさりの酒蒸し」。

こんなに素敵な人間ドラマが繰り広げられている「深夜食堂」があるのならば是非行ってみたいのですが、実際にあったとして、自分には戸に手をかける勇気がなかなか出ないかなぁと。初めて行く店ってなかなか入りづらいんですよね、だから結局「いつもの」店に食べに行ってしまいそうです。

自分だったら何を注文したいだろうか、そして自分にも何かドラマがあるのだろうかと思いながら、とてもおなかがすいてしまう作品でした。

コミックは現在3巻・第43夜まで出ています。作中で時々、柱時計の挿絵が挟み込まれているのですが、1巻で深夜0時を指していた時計が、現在午前5時まで進んでいて、店の営業時間が終わる午前7時を指したら終わってしまうのではないかと思うと、ドキドキしています。人と食べ物に纏わる機微を見事なまでに穿っている素敵な作品なので、これからもまだまだ続いてほしいです。

追記1:2009年9月21日(月)

今月、コミック4巻が発売され、第57夜まで読むことができます。そして、柱時計は午前7時まで進みましたが、巻末で5巻が11月末に発売予定と予告されていたのでほっとしました。

ちょっと前の話題になってしまいますが、今秋TBS系列(関西ではMBS)でドラマ化され、放送時間は各局ともタイトル通り、日をまたいだ深夜となっています。人間ドラマに味わいがある作品ですが、出てくる料理にも「味わい」があるのでお腹が空いてしまいそうですね。10月には深夜食堂レシピも発売されるようです。

umebonさんのブログ「マンガ食堂」では深夜食堂に出てくる料理を再現されていますが、本当にどれも美味しそうです。バターライスと豚汁は特にいいですね~♪

ドラマではどの料理が、そしてどの料理にまつわる人間ドラマが選ばれるのかも楽しみです。やっぱり「赤いウインナー」は外せないですね。

ドラマ「深夜食堂」公式サイト

深夜食堂(MBS)

・『深夜食堂の勝手口』 堀井憲一郎 2009.10 小学館

◎関連リンク◎

深夜食堂(小学館)

深夜食堂(ビッグスリーネット)

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「深夜食堂」(安倍夜郎)のビーフストロガノフ(マンガ食堂 - 漫画の料理、レシピを再現 -)

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2007年8月16日 (木)

49冊目 『大人の写真。子供の写真。』

今日は京都・五山送り火の日。勤め先は送り火を見るには絶好の場所にあり、実は送り火とも深い関わりのある場所なのですが、毎年送り火の日は早めの消灯が決まっているらしく、残業も早々に切り上げて帰宅して、ついさっきまで折角そこにいたのに、何故かNHKの中継で送り火を見ました(笑)

そんなこんなで、どんなもんだですが、今日紹介するのは冒頭文となんの関係もない、

『大人の写真。子供の写真。』 新倉万造×中田燦 2006.5 枻出版社(枻文庫)

大人の写真。子供の写真。』 新倉万造×中田燦 2006.5 枻出版社(枻文庫)

という本です。

写真家として、普通の人生よりも多くの国を訪れ、普通の人生よりも多くの人に出会い、普通の人生よりも多くの経験を積んだ。

しかし、その幸運な人生の代償として、何より大切だったはずの、単純な驚きや無垢な感動を忘れてしまったのではないだろうか。

そんなことに気づいてしまった大人は、ある日、年の離れた親友を誘って、カメラ片手に街へ出た。

大人の名前は新倉万造、53歳。

親友の名前は中田燦、6歳。(本書冒頭より)

市場や町の風景、動物や大自然を前にしたとき、大人と子どもがそこに見ているものの違いをユーモアたっぷりの一言とともに並べたユニークな本です。

とにかく写真家と子どもが共にカメラを持って、同じ風景の前に対峙するという発想が非常に面白く、実際に二人が撮った写真を見比べていくとなんともいえない面白さがあることに気づかされます。

万造さんはやはりプロなのですごくいい写真を撮られています。それに対して燦ちゃんは、構図よりも撮りたいように撮っているなという、のびやかさが感じられ、それが時に思いもよらない味わいとなって現れているように思えました。

それぞれの写真が個別に並べられていたらそこまで面白かったかどうか分かりませんが、今そこに二人は同じものを前にしているけれど見ている風景は確実に違うんだと、二人の写真がうまく並べられていることで気づかされることも多く、非常に面白かったです。写真ってやっぱりいいですね~。

時に写真につっこみ、時にユーモアを交えた解説をされているのは燦ちゃんのお父さん。こちらもなかなかいい味出てましたよ。

◎関連リンク◎

大人の写真。子供の写真。(sideriver)

枻出版社

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2007年7月31日 (火)

46冊目 『いつものおむすび100』

同僚と、おふくろの味について話していたときのこと。私が母親の作ってくれるからあげが一番美味しかったなぁと言うと、故郷の九州を離れ今は遠い関西の地に住む彼はこう言ったのでした。

『塩で握ったおむすびに海苔を巻いて、ちょっと時間を置いて、しなっとしたのが一番うまかばい。』

そうそう、遠足や運動会のときのお弁当にはおむすびが必ず入っていて、そういえば少し湿った海苔の具合がたまらなく美味しかったなぁと、しみじみ思ってしまいました。そんなわけで、彼は海苔がパリッとしたコンビニのおむすびをどうも食べる気にならないそうです。私はあのパリッとした具合のも好きなのですが。そんなおむすび話で盛り上がっていた私たちにぴったりだったのが今回紹介する、

『いつものおむすび100』 飛田和緒 2004.1 幻冬舎

いつものおむすび100』 飛田和緒 2004.1 幻冬舎

という本です。本を開くと、実物大の美味しそうなおむすびが次々と現れます。頁の真ん中にで~んとおむすびの写真があり、その下には具の写真、そして材料と作り方が載っています。おむすびはその種類によって5つに分類されていて、それぞれ、

おかずおむすび

野菜おむすび

漬け物おむすび

薬味おむすび

炊き込みおむすび

となっています。とにかく美味しそうなおむすびの連続で、見ているだけでお腹がなってきます。今風のおむすびに負けじと、梅干や塩のおむすびも存分にその魅力を輝かせていました。

私は実家でよく食べた、大根の葉とちりめんじゃこを炒めたものをご飯と混ぜて、韓国のりで巻いたおむすびが一番好きです。いやぁ、おむすびもなかなか深いものだなと感心しながら、相変わらずお腹をならせて今日も頁を捲っています。

にぎりたてのおむすびはあったかい。

手のぬくもりがいっぱいに詰まっています。

そしてなぜだかわからないけどおむすびを食べると

じんわり元気が出てきます。(P3)

◎関連リンク◎

いつものおむすび100(幻冬舎)

・『毎日のみそ汁100』 飛田和緒 2003.5 幻冬舎

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2007年6月17日 (日)

39冊目 『頭のうちどころが悪かった熊の話』

世の中には本当にたくさんの本があって、自分が手にしている本は「ほんの」一握りなんだなと改めて思います。そして、そんな自分が手にした僅かな本の中でも、折に触れて何度も読み返している本は果たして何冊あるのだろうかと考えると、そのような本と出合えることがどれほど幸運なことなのかとつくづく思えてきます。今日私が紹介するのは、

『頭のうちどころが悪かった熊の話』 安東みきえ 2007.4 理論社

頭のうちどころが悪かった熊の話』 安東みきえ 2007.4 理論社

という本です。

いきなりですが、何なんでしょうか、このインパクトのあるタイトルは。一度聞いたら忘れられないばかりでなく、『熊が頭をうったんだ』『しかもうちどころが悪かったらしい』『それからどうなったんだろう』と、本を開く前に私の頭の中で物語はすでに始まっていたのです。

実際に本を手にとって見ると、これもインパクトのあるもので、うつろな目をした熊が座っていて、しかも頭には表情のあるたんこぶが!

そんなわけでわくわくしながら本を開いてみると、

人生について考える7つの動物寓話

とあり、本書には、

頭のうちどころが悪かった熊の話

いただきます

ヘビの恩返し

ないものねだりのカラス

池の中の王様

りっぱな牡鹿

お客さまはお月さま

という7つの物語が収められていました。先ほど、「人生について考える~」なんてありましたが、私は物語から堅苦しさを感じませんでしたし、下和田サチヨさんが描かれている暖かみとユーモアのあるイラストが随所に織り込まれていて、素敵な本だなと思いました。

物語にはいろんな動物たちが登場しますが、私は「ヘビの恩返し」が一番好きでした。ある出来事があってすっかり変わってしまった父さんヘビと母さんヘビ。そんな両親を前にして、子ヘビがとった行動。

「父さんといい、母さんといい、なんてひどい親たちだ」

ヘビの子はその場でくねくねとひねくれた。

「もうぼくは、ぐれてやるぞ」(P49)

これは物語なんだと分かっていつつも、ヘビがぐれようとしてくねくねしている様子を思い浮かべてしまい、微笑まずにはいられませんでした。

この物語に登場する動物たちはみんな、家族や友人、そして愛する誰かのことを思っています。喜び、悲しみ、悩み、そして思いやる彼らの姿はいつかの私たちなのかもしれません。読みやすいので、読もうと思えばすっと読んでしまえます。確かにすっと読めたのですが、何故かしばらくしてからまた読みたくなってきました。この不思議な感覚を、表題作「頭の~」に登場した百一歳の亀のおじょうさんと重ね合わせている自分がいました。

「彼女はとてもゆっくり生きてるものだから、考えることもゆっくりでね。きみが今きいた言葉は、ぼくがきのう話しかけたことへの返事っていうわけさ」(P12)

時間を置いて浮かび上がってくる自分の気持ち、そんなゆったりとした時間の風を運んでくれた一冊でした。

追記1:2009年9月21日(月)

すいません、今の今まで知らなかったのですが、『頭のうちどころが悪かった熊の話』の安東みきえさんとイラストを描かれている下和田サチヨさんのコンビによる作品『まるまれアルマジロ!』が今年の3月に発売されていたんですね。また読む楽しみができました。

まるまれアルマジロ! 読みたい本だな(YOMIURI ONLINE)

・『まるまれアルマジロ!』 安東みきえ 2009.3 理論社

◎関連リンク◎

頭のうちどころが悪かった熊の話(本よみうり堂)

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四分の一年(BROOCH ブローチ)

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2007年2月22日 (木)

33冊目 『四国はどこまで入れ換え可能か』

日本の、そして世界の地理について学びを深めていったとき、多くの人が様々な「発見」をします。それは時に、日本語のようなユニークな外国の地名であったり、面白い特徴的な形をした国だったりするわけですが、私たち日本人には、ある異国の地が大変身近な日本の国土に思えてきてしまうことがあるようです。

そうです、スポットライトはオーストラリアを照らしています。お~っと、南半球から大陸が日本に急接近!あれ?近づいてくるほどだんだんと小さくなって、そして紀伊半島の西側にスポッ!

…??違和感なし。

こんな余計なストーリーはほっておいて、四国とオーストラリアって入れ替わっても意外といける、なんて考えたことがある人は少なくないはずです。私はそれに加えて、九州とアフリカ大陸を入れ換えたりもしていましたが。そんなわけで、タイトルからして興味をそそられたのが、今回紹介する、

『四国はどこまで入れ換え可能か』 佐藤雅彦 2005.11 新潮社(新潮文庫)

四国はどこまで入れ換え可能か』 佐藤雅彦 2005.11 新潮社(新潮文庫)

という本です。

本を手に取り、ペラペラっとページを捲って、ビックリ。えっ、これってほんまに新潮文庫?と思ってしまった私。実はこの本、新潮文庫では珍しいコミック集だったのです。カバーの折り返しに、新潮文庫の漫画と関連本という一覧が載っていました。

『ポリンキー』や『だんご三兄弟』、最近では『ピタゴラスイッチ』など、その才能が世間を賑わせている、著者の佐藤雅彦さん。本書は、佐藤さんが2001年にネット上で配信していた「ねっとのおやつ」が文庫化されたものです。

タイトルにもなっている「四国はどこまで入れ換え可能か」は、その中のある一編ですが、実際に四国とオーストラリアとが入れ替わった日本地図を見ることが出来て、面白いアイデアだなぁと思いました。

全部で109の作品が収録されていますが、私は「子供忍者ちび丸」と「ミニ象」、そして「リモコンにもの申す!」に惹かれました。「リモコン~」は、テレビとリモコン、果たしてどちらが付属品なのかという言い争いの話で、話のオチにはなるほどと納得しました。

とにかく著者のものを見る視点のユニークさと、目のつけどころの巧さには驚かされっぱなしでした。その絵の可愛らしさによって、癒される、ホッとする、という気分を味わっていたのですが、あとがきを読むと、この作品集は単なる「ゆるくてかわいいもの」だという見方をされるのを避けるために、文庫化されるにあたって、「四国は~」の「きちんとした滅茶苦茶さ」が、この作品集を象徴しているのではないかと考え、著者の強い希望で、タイトルを単行本での「ねっとのおやつ」から改題したそうです。

実際、この作品集から更にいくつもの作品が発展する可能性があるなと思わされました。佐藤雅彦さんから今後も目を離せそうにありません。

◎関連リンク◎

四国はどこまで入れ換え可能か(新潮社)

MASAHIKO SATO TOPICS

日本のスイッチ(MSN毎日インタラクティブ)

佐藤雅彦(Wikipedia)

・『Fが通過します』 佐藤雅彦 2006.8 マガジンハウス

・『ぴったりはまるの本』 佐藤雅彦 ユーフラテス 2006.10 ポプラ社

・『日本のスイッチ』 慶応義塾大学佐藤雅彦研究室 佐藤雅彦 2004.3 毎日新聞社

・『クリック 佐藤雅彦 超・短編集』 佐藤雅彦 1998.3 講談社

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