カテゴリー「音」の2件の記事

2006年10月22日 (日)

21冊目 『トコトンやさしい音の本』

私たちの生活は、たくさんの音に満ちています。心地良くて気持ちが落ち着くものもあれば、騒々しくて気分が悪くなるものもあります。また、祭りの音や鐘を突く音など、季節や時間を感じさせてくれる音もたくさんあります。私たち人間にとって音とは一体どんな存在なのでしょうか。そして、これから求められる音環境とはどのようなものなのでしょうか。そのような思いで手に取ったのが、今回紹介する、

『トコトンやさしい音の本』 戸井武司 2004.9 日刊工業新聞社

トコトンやさしい音の本』 戸井武司 2004.9 日刊工業新聞社

という本です。まず目次を見てみると、

第1章 音とは何か

第2章 音の分析と評価

第3章 音を聞かずに観る

第4章 音のいろいろな利用技術

第5章 快適な音環境を実現するために

第6章 身近で実現されている快音化技術

第7章 シミュレーション利用による快音化

となっています。

第1章では、音についての基本的な知識を得ることが出来ます。最も基本的なこととして、『音は空気の圧力変動であり、空気のない真空の宇宙空間では音は存在しない』ということが述べられています。音があるのは当たり前で、非常に身近なものだという認識しか私にはなかったので、改めて考えてみると、宇宙全体からすれば、音がある環境というのは極めて特殊な環境なのではないかと思えてきました。

読み進めていて、まず私が面白いなと思ったのは、「音の分析を声や言葉でする」という項目でした。

家電メーカーの電話相談では、発生している音を声で表現してもらい、技術者がその音感からおおよその周波数分析を行い、故障の原因を予測し修理の対応を考えます。適切な擬音語を用いることでスムーズな対応がとれるので、発生している音を正確に伝えることが重要です。しかし、実際に発生している音を声で表現することは、なかなかむずかしいことも多くあります。(P38)

例えば、「ギシギシ」や「ガタガタ」、「キーン」といった擬音語で、周波数の高低や音圧の見当をつけるそうです。しかし、著書も述べているように、音を言葉で相手に伝えるという作業は非常に難しいですよね。

また、「音で食品を美味しくする?!」という項目も目に留まりました。

灘の酒を江戸へ回船すると、酒が船に揺られ熟成が進むといわれていました。また、ヨーロッパでも、船に揺られたワインが美味しくなるということは有名です。振動と醸造には密接な係わりがあります。

アルコールの醸造時の蔵にモダンジャズを流し、酒樽に音圧を伝えることで、アルコールと水の分子を良く混合させた音響醸造によるお酒が市販されています。アルコール分子の周辺を水の分子が囲んだ構造となると、直接アルコール成分が舌を刺激しないため、まろやかに感じるようです。

味噌、醤油や納豆などの発酵食品でも音響加振により製造期間の短縮や、品質向上に役立ちそうです。(P78)

栽培している作物にモーツァルトの音楽を聞かせている農家の方を、以前ニュースで見たことがありますが、音を活用することによって、植物や食品に好ましい影響を与えられるとしたら、それは非常に興味深いことだと思います。

さて、次に書くことが私が一番興味があったことなのですが、それは「音」の持つ癒しの効果についてでした。

古代から日本には音で癒しを求める習慣があり、その代表は水琴窟(すいきんくつ)や鹿威し(ししおどし)です。水琴窟とは、地中に瓶を埋めておき、水滴が落ちて反響する音を楽しみ、鹿威しは、竹筒に水を引き込み、水の重みで反転した竹筒が石にあたる際の快い音を楽しんでいます。

周期的でなく、何とも軽やかな不思議な音色で、いつまで聞いていても飽きない音です。これらの音は、1/f(エフブンノイチ)ゆらぎといわれる高周波数の音が少なく、低周波数の音を多く含む場合が多いのです。川のせせらぎや滝の音など一般に人が心地良く感じる自然界の音は、1/fゆらぎとなっていることが多いのです。クラシックや人気のある音楽を調べると、1/fゆらぎに近い自然な音色となっています。(P80)

「1/fゆらぎ」については、『ゆらぎ研究所』の1/fゆらぎとは?に詳しいです。機械的・人工的な印象を受ける「規則性」に溢れた現代社会において、自然を感じることが出来る「不規則性」の性質を持った「1/fゆらぎ」のことが今後より詳しく解明されることで、私たちの生活が大きく変わっていく可能性があるかもしれませんね。しかしよくよく考えてみれば、それは、『人が手を加え、改良し、快適さを追求してきた社会というものが、やはり本来の自然の法則とは切り離せないものだ』ということを再認識することに他ならないのではないでしょうか。

さて、実は私がこの本を手に取ったのには理由がありました。この本をたまたま手にとって、パラパラと頁を捲っていたとき、これまで馴染みのなかった、ある「キーワード」が目に飛び込んできたのです。それが『快音化』という言葉でした。言葉の表面だけを見れば新鮮さはないのかもしれませんが、「快音化」という視点は、これからの音環境を考えていく上で、一歩進んだ考え方だと言えるものです。

音環境を良くしようと考えるとき、まず思いつくのが、私たちが不快に感じる音、「騒音」を無くすということです。確かに騒音を無くす、低くするという方向に改良していけば、私たちの生活から不快な音が無くなるように思えます。しかし、実際はそう簡単ではないと著者は指摘します。

低騒音化により大きな動作音が小さくなったことで、今まで気になっていなかった他の動作音が相対的に大きく感じられ、新たな騒音として問題となることもあります。非常に小さな音でも心理的に気になり、その音のみが選択的に聞こえることや、ある動作状態で時折発生する異音が問題となることもあります。低騒音化だけでは、必ずしも心地よい音環境が実現するとは限りません。(P96)

つまり、『騒音を限りなく無音に近づける』という方向で技術開発を進めることが、私たちの音環境を快適にするとは一概には言えないのです。そこで著者が主張しているのが、「低騒音化」ではなく、「快音化」という視点に立って音環境のデザインをしていこうということなのです。

例えば、高級車や高級バイクは無音かというとそうではなく、そのメーカーだと分かるようなエンジン音であったり、ドアの閉まる音であったりして、それが消費者にとっては魅力であり、企業にとってはブランド力となっているわけです。つまり、その製品が奏でる音がデザインされているわけです。

「快音化」という視点は、言い換えれば、「付加価値・快適性・高級感・使用満足度をより高めていこう」という視点であるといえます。これまでの「低騒音化」という視点は、確かに騒音は減りますが、人が心地良いと感じる音までも無くしてしまうものだったのです。

「人に心地よい音質をデザインする」といえる「快音化」。その視点を得られたことは大きな学びになりました。

著者の戸井武司さんが、昨年の暮れに、NHKの「クローズアップ現代」に出演されていたことを今になって知りました。残念ながら私は見ていなかったのですが、『記録と記憶』さんの「音の快音化」という記事で、その時の放送内容について詳しく書かれていたので、リンクさせていただきました。

◎関連リンク◎

トコトンやさしい音の本(日刊工業新聞社)

戸井研究室(中央大学理工学部)

戸井武司(中央大学)

『トコトンやさしい音の本』 戸井武司著(藤田赤目)

1/fゆらぎとは?(ゆらぎ研究所)

F分の1ゆらぎの謎にせまる(at home こだわりアカデミー)

自然界のリズムを日常生活に取り込もう(All About)

心地よい音をめざせ 室内騒音 対策最前線(クローズアップ現代)

水琴窟

☆トラックバックさせて頂いた記事☆

音の快音化(記録と記憶)

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2006年1月29日 (日)

4冊目 『藤山一郎とその時代』

小学生の頃だったと記憶しています。昭和歌謡を振り返る番組で、藤山一郎さんの「青い山脈」を聴いたとき、なんとも言えない清廉さと哀愁を感じ、また、現代J-POPを盛り上げる歌い手とはまったく違う、その独特の歌い方にも強い関心が芽生えました。

私は現在二十代半ばの、藤山さんが活躍した時代が疾うに過ぎ去った後に生まれた世代に当たりますが、そんな私にとって「青い山脈」が思い出の曲となっているというのは不思議なものだと自分でも思います。今日紹介するのは、藤山一郎さんの生涯を辿ったこの本、

『藤山一郎とその時代』 池井優 1997.5 新潮社

藤山一郎とその時代』 池井優 1997.5 新潮社

です。目次を眺めると、

プロローグ 急逝

1 第一の母校・慶応

2 音楽学校の青春

3 歌手「藤山一郎」の誕生―「酒は涙か溜息か」

4 テイチク時代―「東京ラプソディー」

5 戦争そして軍歌

6 南方へ

7 収容所のアコーディオン

8 荒野にひびけ―「長崎の鐘」

9 若く明るい歌声に―「青い山脈」

10 四三回の紅白

11 流行歌への疑問

12 奉仕の精神をいかす

13 日本の自動車史を生きる

14 最後の作曲

エピローグ 冨士霊園

という構成になっています。

著者ははじめに、このように記しています。

藤山一郎は明治という時代も残りあと一年という明治四四年(一九一一年)に生を受け、満州事変の始まった昭和六年(一九三一年)に「キャンプ小唄」「酒は涙か溜息か」でデビュー。戦時中は、戦時歌謡を歌い、軍のために南方の島々を慰問。終戦後、その南方の島で収容所生活をおくり、帰国して「青い山脈」「長崎の鐘」などの大ヒット曲をとばす。しかし、歌謡曲の堕落に疑問を感じ、NHK専属となって、ホームソングをはじめ、正しい歌、皆で歌える歌の普及に努めた。さらに、ロータリークラブやボーイスカウト活動など、昭和三〇年以降に活発となる社会奉仕は晩年まで続けられた。

「楷書の歌声」「楷書の人生」を貫いたこの藤山一郎の生涯を追うことは、大正・昭和、さらに平成と日本の歩みを追うことでもある。(P9 プロローグより)

私は大学進学に向けて勉学に励んでいたとき、机の目の前に、あるメモを貼っていました。それは、「青い山脈」の歌詞に、山脈のイラストを添えた手書きの自作メモでした。

『若く明るい 歌声に

雪崩は消える 花も咲く

青い山脈 雪割桜

空のはて

今日もわれらの 夢を呼ぶ』

この歌詞を眺めていると、希望を歌う声が聴こえてくるようで、いつでも目に入る机の前の壁に貼っていたのでした。

2005年末に行われた、第56回 NHK紅白歌合戦では、「スキウタ」アンケートが実施され、その1位にはSMAPの「世界に一つだけの花」が選ばれました。そのことに関連した話になりますが、この本では、「青い山脈」が日本人の最も好む歌のベストワンであるという、二つの調査の結果を紹介しています。

一つは、1980年、TBSによる『日本人の好む歌ベスト一〇〇〇』、そしてもう一つが、1989年、NHKによる「昭和の歌・心に残る二〇〇」。いずれも1位は「青い山脈」となっており、「青」という色の持つ「標準的・清潔志向」、「山脈」の持つ「故郷志向」が作用しているとの指摘や、日本人の持つ適当な保守性・潔癖性・進歩性・曖昧性を要因とする分析などが紹介されています。

私が面白いと思ったのは、慶応普通部で同級生だった岡本太郎さんとのエピソードで、2人の卒業時、成績は藤山さんが52人中51番で、岡本さんが52番だったそうです。国民栄誉賞受賞歌手と日本を代表する芸術家がここに並んでいたことは、なんとも意外かつ、だからこそ人生は面白いと感じさせてくれました。

大学入学直後に、同回生の前で歌を歌わねばならなくなり、とっさに歌ったのが「青い山脈」で、その後、同回生の間では、私と言えば「青い山脈」だという学生生活を送ることになりました。

そんな思い出のつまった「青い山脈」ですが、これを機会に、まだ藤山一郎さん本人の歌声を聴いたことのない方には、ぜひ一度、清々しく澄んで特徴のある、あの歌声を聴いてほしいなぁと思います。

◎関連リンク◎

藤山一郎(Wikipedia)

青い山脈(山の愛唱歌集)

・『藤山一郎自伝 歌声よひびけ南の空に』 藤山一郎 1993.10 光人社(光人社NF文庫)

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